円安で物価高?アベノミクスのデメリットと“防衛的”資産運用術
「週刊ダイヤモンド」(2月2日号)の特集は『円安に乗る!株・投信 外貨投資』だ。長らく続いた円高トレンドが大きく転換し、円安の流れが定着しつつある。この円安の流れに乗り遅れるな!という特集だ。
『Part1 為替トレンド大転換! 円安が続くこれだけの理由』ではアベノミクスだけでない、長期的な円安傾向の背景は世界の景気回復、日本の国際収支悪化といった点にあると解説。米国の景気回復で来年2014年の円の対ドルレートは「100円」もありうるという。
『Part2 徹底評価! 外貨投資商品 投信・ETF・MMF253本』では、トレンドが大転換する今こそ、新たに海外への投資を検討すべき時、投信、ETF、MMFなど投資対象となる商品を徹底評価し、外貨建てMMFとETF(上場投資信託)が適切ではないかという結論になっている。
『Part3 相場転換でこの株が狙い目! 円安に乗る注目30銘柄』。円安や経済政策で恩恵を受ける30銘柄を厳選した。自動車、精密機器、鉄鋼、造船、海運といった銘柄が並ぶ。
特集のポイントは、円安の原因をどう見るかだ。
●円安・株高トレンドは今年7月まで!?
今回の円安の直接のきっかけは12年11月の安倍晋三・自民党総裁の「大胆な金融緩和でデフレ脱却と円高是正を目指す」との発言だ。急激な円安が進み、11月13日には79円だった円の対ドルレートは今年1月18日には90円になった。
この間、相場を動かしたのは海外投機勢だ。安倍政権は経済政策(アベノミクス)の「大胆な金融政策」を着実に実行してくれるーーそんな期待感がヘッジファンドなどの海外投機勢に広まったことで、海外投機勢が主導して「円安」方向への流れを作った。この「円安」で活気づくのは輸出企業だ。そこで輸出企業の株式を中心に株価も上昇。「株高」の状況を作り出したのだ。
興味深いのはニュース記事ページ『株式市場 透視眼鏡 アベノミクスを外国人は高評価 1万2000円は年内の通過点』という記事だ。海外投資家の日本株買い越し額は4173億円。「野田解散」から累計すると9週間で計3.5兆円と巨額の買い越しを記録した。同様のペースは05年の「小泉郵政解散」時だ。この時は解散後9週間で計3.7兆円の外国人買いがあり、以来、8カ月あまり、右肩上がりの買い越しが続いた。今回の海外投資家の日本株買い越しも同様のペースを続ければ、今年7月までは右肩上がりとなる。13年は日経平均1万2000円は単なる通過点になりそうという予測記事を、大和証券チーフストラテジスト成瀬順也氏が書いている。
さらに特集では、円安の原因は安倍政権のアベノミクスだけではなく、日本の国際収支の悪化、米景気回復、欧州の金融危機沈静化といった面もあり、長期的に円安が続くと見ている。
こういった円安時代にどのような投資をすべきか。円安とは円の価値が落ちること。海外のモノは円に換算して割高になる。ならば今のうちに海外の資産に投資しておけばよい。それこそが資産運用で“円安の波に乗る”ことであり、防衛策でもある。
主要な外貨投資商品のメリットとデメリットを比較すると、リスクの低さを重視するなら、外貨ベースで元本保証のある外貨定期預金か安全性の高い債券投資の一種である外貨建てMMFとなるだろう。ただし、外貨定期預金は換金時のタイミングというリスクが大きい。
また、リターンの高さを重視するなら、投資信託も選択肢に入ってくる。なかでも、投資信託は信託報酬などコストも高いので、信託報酬の低いETF(上場投資信託)になってくるだろう。ETFは株式のように市場で取引できるのが特徴で商品の性格としてはインデックスファンドに近い。
ただし、日本上場ETFなら売買手数料は安いのだが、海外上場ETFでは、米国株の場合で取引1回当たり25~26ドルとかなり高めだ。特に一回の投資額が小さいと割高になってしまう。
また、コストという面を見れば、FX(外国為替証拠金取引)がもっとも優秀だが、短期の為替相場では海外投機勢の思惑などで、しばしば予想外の動きをするため、当て続けるのは簡単ではない。トータルの収支で勝てるのは投資家の2割ともいわれるほどだ。
「円安」が加速している場合には、消費者は「円安・株高」を喜んでばかりはいられないおそれもある。1ドル100円時代になれば、「円安」が個々の生活にもたらすのはメリットよりもデメリットの度合いが大きくなる(記事『輸入物価上昇が消費・投資抑制 過度の円安がもたらすリスク』)。即座に影響を受けるのは、海外から輸入する食糧やガソリンなど、生活に直結するものが少なくないからだ。
バークレイズ・リサーチの試算によれば、1ドル70円台後半から10円円安が進んだ場合、円安が定着した1年目は、消費も設備投資も増加する。ところが、2年目になると、消費が減少を始める。というのは、輸入品を中心に物価が上昇を始める。一方で、この段階ではまだ賃金(給料)は上がらない。このために、消費が減少し始めるのだ。
そして、3年目には、設備投資も減少に転じる。円安による原料や資材、エネルギー価格上昇で、企業収益が圧迫され、設備投資を抑制するからだ。輸出の伸びで、GDP全体は3年間増加を続けるものの、個人消費や設備投資など内需がマイナスに転じてしまうのだ。
この試算を現実にあてはめてみると、デフレからインフレ(物価上昇)になり、安倍政権の最重要課題である「デフレからの脱却」は14年に実現する可能性があるものの、消費者は物価高で生活苦にあえぐ、という皮肉な事態になりそうなのだ。その時点ではもう、「外貨投資商品」などと言っていられない。投資は解約、即・現金化ということになりかねないのだ。
(文=松井克明/CFP)