学費週38万円!ラーメン界のドンが経営する学校…戦闘機から製麺機を開発?
今回の番組:2月7日放送『カンブリア宮殿』(テレビ東京)
『カンブリア宮殿』(テレビ東京)を見続けて来たおかげか、村上龍氏のリアクションの“深さ”がちょっとだけ分かって来た。例えば、製麺機を製造し、ラーメン学校を経営するラーメン界の革命児と呼ばれる社長に対して「お客のニーズや問題点を知る方法は?」と問うた今回の場合は、こんなやり取りが絶妙だった。
「お客の不満足度を徹底的に知ることだ」とハッピを着た社長が、まるでそこが講義の場であるかのようなしっかりとした口調で、自らの経営哲学について話すが、ここで引く村上氏ではない。一言の間違いもないように、さらに問いつめる。
「お客さんの、不満足を知るには、どうしたらいいんですか?」と。
対する老社長の答えもよどみない。「ほとんどの店では満足度を調査するが、5段階で4を付けるのがほとんど。それでは標準。不満足な点を徹底的に探り出すことで客の真意が見えてくる」と。
すると村上氏は「なるほどー」とテロップにも乗らないような小さな声でため息と共に漏らす。「納得した!」という単語が視聴者の頭に浮かんだ一瞬だ。
絶妙な間合いで小池栄子さんの解説も完璧だった。
「確かに(満足度アンケートで客に)残り1を取れない理由はなんですか? って聞かれることはないですね」
あうんの呼吸ってこういうことだな、と思う。互いが顔を見合わせることもなく、それぞれが完璧に役割を演じ、進行する。テレビ慣れしてなくても、経営には一言も二言もある、うるさい強者たちを毎週相手にしているだけのことはある。わずか数分のスタジオコメントだが、技を見せつけられた。
そんな名場面を生み出した今回の放送はラーメンがテーマだった。戦闘機の設計師からキャリアをスタートさせ、F4ファントムの燃料系統を担当していた技術を生かし、製麺機を制作することになったという大和製作所の藤井薫社長。本当は自動機械の設計がやりたかったそうだが、会社が香川にあったため、うどん製麺の注文が多く、腰掛けのつもりで始めたが「どうやったらおいしい麺が出来るかとのめり込んでいった」と語る。で、全国の麺が一台で製造出来る製麺機を生み出し、さらにはラーメン学校までも経営することに。年間約3000店が開店し、同じ数だけ閉店する現在だからこそ、彼は「儲けるつもりなら開店するな」と言い、それでも学びたいという経営者には店が必ず儲かるまで面倒を見る。一週間で38万円もする受講料に村上龍氏も小池栄子さんも驚きを隠さないが、デジタル・クッキングと呼ばれる全ての調味料を数値化した製造法を知れるのなら安いものなのかもしれない。
……いや、高い。どう考えても高過ぎる。パッと見、主婦向けのお料理教室と変わらないのに一日5万強って。村上氏は「高いお金を払うとやる気になる」とフォローしてたけど、僕は「セミナーにハマるのは自分で金を払うからだ」って言われたことを思い出した。
番組の冒頭では新宿ゴールデン街にある人気店『凪』もこの学校の出身であることが紹介されていたが、あの独創的なこってりどろどろラーメンのきっかけがこのおじいさんだったとはびっくりだ。昼に食べようものなら翌日まではもたれそうな(だからこそ美味い)ラーメンを食べて、身体は大丈夫かしらと余計なことを思ってしまった。だがラーメンに己だけでなく生徒の人生も賭けている彼にそんな心配はご無用だ。
生徒が店を開けている昼時でもガラガラな店に行けば、即座に「厨房が見え過ぎ、のれんを付けなさい。壁が寂しい」と味以外の問題点を注意し、問題のラーメンを食べれば「甲府は寒いから塩分濃度を高くしないと地元の人の口には合わない」と指摘する。
と、ここで僕も気づいた。
この社長、分析を数字で表してるが、言ってることは味を濃くとか薄くとか、感覚的なことと全く変わらないんだな、と。ただ、もはやそういった言葉では説得力がない。数字は嘘をつかないのだから。ただ「美味い、マズい」だけでなく、その言葉を分析してこそ「現在」のラーメン経営なのだろう。
現代の時代性も感じられ、納得もさせられる今回の『カンブリア宮殿』だが、僕にはどうにもつまらなかった。それはあまりに正しすぎたからだろう。僕はラーメンを週に5度は食べるほど好きだが、別に無添加だからとか独創的だからとかそんな理由で好きなんじゃない。美味けりゃいいじゃん、と一言で言いたい気持ちもあるが、あえて言わせてもらえば身体に悪いから好きなのだ。化学調味料をバリバリに使っているのもイイ。下品と言われようが、天下一品の締めはライスをどーんと入れるに限る。店員さんが味を分析し、美味しいものを目指すのは大いにして欲しいが、個人的には「悪い」食べ物であって欲しいな、ラーメンは。 と思った。
(文=松江哲明/映画監督)