減少に転じる家計のつきあい費
このところ、家計における「つきあい費」の支出金額が減少に転じている。家計調査における「つきあい費」の品目定義は、「親睦又は交際的要素のある支出」となっている。事実、近年の「つきあい費」の支出動向を前年比で見ると、2017年8月分から2017年12月分まで5カ月連続で増加を続けていたが、2018年1月から減少に転じている(資料1)。
しかし、過去をさかのぼれば、家計のつきあい費支出の前年比は、2014年10月から2015年10月まで13カ月間増加した後に、2015年11月から2017年7月まで21カ月間減少している。2014年の秋以降といえば、日銀が追加金融緩和を打ちだし、そこに解散総選挙で与党が圧勝し、株価上昇に拍車をかけた時期と重なる。一方、2015年の秋以降といえば、その夏から発生したチャイナショックによって株価が大きく調整した時期と重なる。
従って、家計におけるつきあい費の支出金額は、その時期の株価と関係することが推察される。
家計のつきあい費は株価と連動
一般に、「つきあい費」のような支出は、景気が良くなると増加しやすく、景気が悪くなると抑制されやすい傾向にある、といわれている。この背景には、つきあい費には嗜好的な要素が強いことがある。従って、同じく景気が良くなると上昇しやすく、景気が悪くなると下落しやすい株価とも統計的に有意に関係する可能性がある。
そこで、家計におけるつきあい費の支出と景気の関係を調べるために、総務省「家計調査」の農林漁家含む二人以上の世帯におけるつきあい費支出と日経平均株価の推移をみると、正の相関関係がある様子がうかがえる(資料2)。つまり、つきあい費の支出金額は株価と統計的に有意な関係があり、昨年秋以降の株価上昇は年末のつきあい費支出の増加に好影響を与えた可能性がある。そして、2015年以降の関係に基づけば、日経平均株価が10%上昇すると、家計のつきあい費が4.3%程度増加するといった関係がある。
この背景としては、一般的に親睦または交際的要素のある支出は、嗜好的な要素が強い一方、株価は基本的に将来の企業業績に対する期待で決まる要素が強いとされる。つまり、企業業績が拡大する環境下は、株式を保有していない消費者についても、雇用所得環境の改善の期待が高まりやすいだろう。こうした関係が、家計の所得環境とも関係する株価と家計のつきあい費との連動性を生み出しているものと思われる。
消費者心理とも関係する家計のつきあい費
以上のように、昨秋以降の株価上昇とともに家計における「つきあい費」の支出金額は増えている。しかし裏を返せば、たまたま近年に株価とつきあい費の関係が連動しているだけで、見せかけの相関の可能性もあり、景気とつきあい費との関係があるわけではないと考えることもできなくない。
では、こうした家計のつきあい費は、景気の変化が直接作用するとされる家計の消費者心理とどのような関係にあるのだろうか。そこで以下では、消費者心理のデータを用いて、家計のつきあい費支出とどの程度関係があるかを調べた。
代表的な消費者心理のデータとされる内閣府「消費動向調査」の消費者態度指数と「景気ウォッチャー調査」の先行き判断DI(家計動向関連)を用いて、家計のつきあい費支出額との関係を見ると、株価との関係ほどではないが、いずれもつきあい費と統計的に有意な正の相関関係があることが確認される。そして、消費者態度指数と景気ウォッチャー調査の先行き判断DI(家計動向関連)がそれぞれ1%ポイント上昇すれば、家計のつきあい費がそれぞれ+1.37%、0.36%程度増加する関係にあることがわかる。
近年は、消費者心理のデータがいずれも2016年12月から前年比プラスで推移していることから、2017年以降の消費者心理の改善が、間接的に2017年8月以降のつきあい費支出の増加に結びついた格好といえよう。したがって、今後は消費者心理や株価が好調に転じれば、嗜好性の高いつきあい費の支出が増加に転じる可能性が高い。
ただ一方で、株価の軟調が持続すれば、いくら消費者心理が水準を維持しても、結果的につきあい費がそれほど増えないという可能性もある。従って、つきあい費が景気のバロメーターとして今後も機能するかは、今後の株価次第といえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)