大学の教壇に立つためにフィリピンに来てから半年がたとうとしている。みなさんはフィリピンについて、どのようなイメージを持っているだろうか。
少し前なら、「怖い」「危ない」といった、負のイメージ一色であったかもしれない。だが最近では、セブ、ボラカイ、イロイロといった世界的に注目度が高いビーチリゾートのおかげで、フィリピンへのイメージは随分と良くなっているようだ。
また近年は、アメリカやイギリスと比較すれば破格の値段で英語が勉強できる場所としても、注目されている。アメリカやイギリスに留学しても、グループレッスンが主流であり、英語が下手な学生同士の会話が効果的とは考えづらい。一方、フィリピンでは狭く仕切られたスペースにおけるマンツーマンのレッスンが主流である。それでもなお、アメリカやイギリスよりも費用が抑えられるということで大変人気となっている。
フィリピンの社会に注目すれば、国民の平均年齢が23歳(日本は46歳)、人口も増加している。こうした傾向は、東南アジアの多くの国に共通しているように思われるかもしれないが、少子化は日本だけではなく、すでにタイやベトナムなどでも問題になっている。
経済に関しては、1960年代までは“アジアの優等生”といわれていたが、その後“アジアの病人”といわれるまでに低落した。しかしながら、近年では欧米企業からBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を受託するケースが目立っており、年7%程度の経済成長を遂げてきている。BPOの受託には、フィリピンの国民の英語力の高さが貢献している。
それにもかかわらず、庶民の暮らしは決して楽ではない。筆者が仲良くなったコンビニエンスストアの店員の給与を聞くと、日給1000円と日本の10分の1程度の状況である。もちろん、物価もそれなりに安ければ大きな問題とはならないが、たとえば500mlのコーラは80円程度であり、モノの値段はおおむね日本の3分の2~半分程度といった印象である。人件費が大きく価格に反映される、マッサージやタクシーといったサービスの価格は日本の10分の1程度であるものの、一般庶民の生活にはあまり関係がないことは明白だ。
住居探しの際に、狭いワンルームに2段ベッドが2つ置かれているという部屋を数多く見たが、1人では部屋を借りることができないため、4人でシェアするということがマニラでは一般的なのだ。たとえば、2万円の家賃を4人でシェアして1人5000円を払うくらいが相場のようだ。
だが、シェアにしても、部屋を借りられる人はまだ恵まれているほうかもしれない。外を歩けば、否応なく多くのホームレスの姿が目に入ってくる。日本でホームレスといえば、ひょっとすると自分の狭いマンションよりも居心地がいいのではないかとも感じる川沿いの小屋などを思い浮かべるかもしれないが、こちらのホームレスは家がないだけではなく、何もない。通行人にお金を入れてもらうための缶やコップを道端に置き、ただ座ったり、寝たりしている。日本では見ることがなくなった、こうした光景が街のあちこちに点在している。
社会に貢献するマーケティング
日本では社会貢献など、まったく意識したこともなかったが、フィリピンに暮らし、毎日こうした光景を目にすると、私のようなものでも何か社会に貢献できないかと思うようになってきた。
マーケティングという学問領域においては、1960年代ごろより単なる利益追求ではなく、社会への貢献も重視する、さらには自社の社会貢献をアピールすることにより、顧客からより大きなロイヤリティを獲得するソーシャル・マーケティングという考え方が生まれている。
こうしたソーシャル・マーケティングのなかでも、とりわけ近年注目されてきているものにCRM(Cause Related Marketing = 良い理由・根拠に基づくマーケティング)がある。代表的な事例として、1983年にカード会社のアメリカン・エキスプレスが実施した、“自由の女神修復キャンペーン”がある。その内容は、カードの発行1枚当たり、またはカード利用1回ごとにアメリカン・エキスプレスが自由の女神修復に対して寄付を行うというものである。キャンペーンの結果、170万ドルが寄付され、またアメリカン・エキスプレスにおいても、カードの新規申込5割アップ、利用額3割アップというメリットがあった。
今後、フィリピン社会への貢献を目指し、企業に対して、こうしたソーシャル・マーケティングおよびCRMを企画・提案していきたいと考えている。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)