また、販売部の力も弱い。ドコモではNTT同様に技術職と人事・労務・財務系が強く、営業系出身者が副社長以上に就いたことがない。このため、商品・サービスを顧客に訴求することに重点が置かれていないのだ。
そして組織の制度疲労も深刻だ。社内では官僚主義が跋扈していて、「社内調整に7割5分の労力を割き」「(一日が)打ち合わせだけで終わるのも日常的」だという。こうした体質をどう変えていくか。
「いまのドコモは、将来のビジョンよりも、今期の利益確保という、目先の“成績表”が最重要課題になっていることが問題」「既存企業とけんかしたくないと遠慮している」と指摘するのは、15年前にiモードを立ち上げた1人である元ドコモ執行役員の夏野剛慶應義塾大学特別招聘教授。具体的には「例えば、本気で食のサービスをやるならば、セブン&アイ・ホールディングスの買収など、兆円単位の事業拡大を考えるべきなのに、失敗しても痛くない投資しかしていない」という。
確かに、近年はCD販売大手のタワーレコード(12年:出資比率50%、出資額133億円)、有機野菜の宅配サービスを手掛けるらでぃっしゅぼーや(12年:出資比率90%、出資額63億円)や、料理教室を運営するABCクッキングスタジオの持ち株会社ABCホールディングス(13年:出資比率51%、出資額非開示)の買収など、戦略に迷走感が漂う。
「信頼を価値に変えるような、金融や保険といったビジネスとも相性がいいだろう。後は経営者にビジョンや覚悟があるかどうかだ」という夏野氏。
●ドコモ復活の可能性は?
iモードを誕生させた部隊はいわば傭兵や外人部隊で、純血主義のドコモの体質とは異なる人々だ。前出の夏野氏もドコモ入社前はベンチャー企業の副社長だった。「勝手にやれば」という雰囲気であしらわれていたが、iモードが主流になると、何を決めるにしても、他部署との調整や了解が必要になっていき、一役員が思い通りにできることに限界があったと夏野氏は退社した。創業時の主要メンバーはドコモにほとんど残っていないという(『インタビュー 経営者のビジョンや覚悟次第でドコモは世の中を変えられる』)。
ドコモ復活には、外部から新しい風を持ち込む人材の積極的な起用が必要不可欠なのだ。しかし、ドコモはNTTグループの営業利益の7割を占める稼ぎ頭。現社長の加藤薫氏は初のドコモ生え抜き社長だが、持ち株会社のNTTの鵜浦博夫社長とは関係が近く、事実上その支配下にあるとされる(『コラム 反発してきた三男坊を持ち株会社が“支配”する日』)。
ダイヤモンド編集部は「ドコモに今後、勝機があるとするならば、個人相手のビジネスではなく、機械と機械を結ぶ通信、M2M(マシン・トゥ・マシン)の世界にある。自動販売機や自動車、ゲーム機といったものに通信回線サービスを提供することだ」と法人を対象としたサービス中心に移行すべきと提言している。
ソニー、任天堂、ドコモと、アップルにボロ負けした大企業をいかに復活させるかが、日本経済にとって今後のテーマになりそうだ。
(文=松井克明/CFP)