なお、同書はリノベーション業者が執筆しており、賃貸オーナーにリノベーションを勧める内容なのだが、クロスや床材のちょっとした工夫で広さを錯覚させるテクニックなども紹介しており、借り手にとっても勉強になる。この業者は特に塩ビタイルを多用するという。塩ビタイルとは、塩化ビニール系の素材でできたタイル調、フローリング調の床材。通常、床は木材のフローリングか、塩ビ系のクッションフロアを使用するが、塩ビタイルは傷やモノを置いた跡が付きづらいという特長がある。
床材をコストの高い順に並べると「フローリング>塩ビタイル>クッションフロア」となっており、床材を見ることで賃貸オーナーのコスト意識も浮かび上がる。なお、塩ビタイルはフロアタイルともいわれ、『金持ち大家さんがこっそり実践している 空室対策のすごい技』(日本不動産コミュニティー編著/日本実業出版社)でも、「ローコスト&高耐久&おしゃれ! 奇跡のフローリング」として紹介されている。
●家賃は下げずにサービスでアピール
最後に、いずれの本でも共通している主張だが、空室を埋めようとして家賃を下げてはいけないという。
「いったん下げた家賃を元に戻すのは至難の技。しかも、その入居者が住み続ける限り、値下げした分の家賃は損失になってしまいます」として、家賃よりも敷金・礼金の見直しを優先すべきだと述べている(『金持ち大家さんが~』より)。また、フリーレント(一定期間家賃を無料にすること)も組み合わせて、家賃は下げずに、お得感を感じさせるように演出するのだという。
例えば、家賃6万円の物件で、以下のような3つのプランの中から入居者に選んでもらうシステムにするアイデアを紹介している。
(1)家賃6万円で値引きをしない、敷金・礼金ゼロ
(2)毎月2000円値下げで(家賃5万8000円)、礼金1カ月分
(3)毎月4000円値下げで(家賃5万6000円)、礼金2カ月分
入居する側に選ぶ権利があるのだが、悩ましくなる。2年間の支払総額で考えると、(1)144万円、(2)145万円、(3)145万6000円と、大きくは変わらない。2年以内で退去するのであれば、(1)のケースが最もお得だが、2年後に更新して住み続ける場合には、(2)や(3)のケースがお得になってくる。
値下げ交渉に対して、礼金をゼロにする代わりに、逆に家賃を上げるケースもある(『そのアパート経営は~』より)。つまり、礼金を含めて2年間の支払総額で考えるというわけだ。
「家電をプレゼントしたり、室内物干しを付けたりする」など、アピールをすることで入居者を獲得することも大事だという(『家賃は下げるな!』より)。
賃貸オーナー側は、借り手の気を引くために、さまざまな策を講じてくる。相手の土俵に乗らずに、失敗しない物件選びをしていただきたい。
(文=松井克明/CFP)