また、住宅投資についても、今回は増税後に住宅ローン減税の拡充や、すまい給付金などが控えているため、97年ほどの駆け込み需要の反動減は避けられるものと思われる。
さらに、97年当時と比べても国内企業の生産設備の過剰感は低く、雇用人員に至っては不足超となっている。このため、駆け込み需要の反動や実質購買力の目減りに伴う企業収益への悪影響が生じても、国内企業が設備投資の抑制や人件費の削減を余儀なくされる可能性は低いと見られる。
なお、97年の消費税率引き上げ後に景気が腰折れした背景には、アジア通貨危機や国内における金融システム危機が発生したことがある。これにより、バブル崩壊以降に生じた過剰な設備や雇用、債務の調整を余儀なくされたため、本格的なデフレに陥った。しかし今回は、当時と比べて企業の業況判断DIも高水準にあり、銀行の不良債権問題も片付いている。従って、消費税率引き上げによる消費の落ち込みが、景気腰折れを招く可能性は低いと判断される。
●雇用と賃金は改善するのか?
また、消費増税の影響は増税後の実質可処分所得、すなわち雇用者数と賃金と消費増税分を除いたインフレ率にも左右されよう。
まず、雇用者数については、先の雇用人員判断DIが不足超に陥っていることや、有効求人倍率が6年以上ぶりに1倍を超えていること、さらには労働力率が上昇に転じていることなどからすれば、雇用のミスマッチが残る中でも消費増税後に雇用者数の増加トレンドは持続する可能性が高いだろう。
一方、賃金については、政府が労使交渉に介入したこともあり、賃上げが実現する可能性が高い。実際、春闘賃上げ率に連動性が高い労務行政研究所の賃上げ率見通しを見ると、今年度は15年ぶりの水準に高まっている。従って、過去の経験則からすれば、14年度の春闘賃上げ率は2%を大きく上回ることが期待される。
なお、12年度から始まった公務員の給与削減措置が今年度いっぱいで終了することも来年度以降の賃金押し上げに寄与しよう。当研究所の試算によれば、それによる雇用者報酬押し上げ効果はプラス0.33%にも上ることからすれば、公務員給与引き上げも無視できない賃金上昇の材料となろう。
【著者・永濱利廣氏の近著】
『エコノミストが教える経済指標の本当の使い方』(平凡社/3月出版)