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消費増税、家計負担は年9万円増でも景気腰折れ回避か~前回増税時との経済環境の違い

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
消費増税、家計負担は年9万円増でも景気腰折れ回避か~前回増税時との経済環境の違いの画像1消費増税について報じる新聞各紙

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所 主席エコノミスト)

●負担額自体は大きい、今回の消費増税

 今回の消費増税の負担額を試算すると、消費増税そのものは相当景気へのダメージが大きいと判断される。参考のために1989年度(消費税3%導入)と97年度(同3→5%増税)、それから今回2014年度に5→8%へ増税した場合のそれぞれについてマクロの負担額を見ると、89年度には物品税の廃止等の減税もあり、ネットの増税幅は1.8兆円にとどまっている。当時はバブル景気末期で景気の勢いもあったため、結果的に景気への影響は軽微にとどまった。

 それに対し、97年度は消費税率の引き上げ幅自体は2%で、負担増は5兆円程度と限定的であった。しかし、特別減税の廃止や年金医療保険改革等の負担が重なり、結果的には9兆円近い大きな負担となった。さらに、景気対策がない中で同年6月にアジア通貨危機が起こり、さらに同年11月に金融システム不安が生じたため、景気は腰折れをしてしまった。

 確かに、97年度は消費増税以外の負担増もあったため、消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない。しかし、今回の消費税率3%引き上げは、それだけで8兆円以上の負担増になり、家計にも相当大きな負担がのしかかる。これを単純に世帯数で割れば、一世帯平均年間15万円弱の負担増になる。しかし、総務省「家計調査」を用いて、具体的に4人家族(有業者1人)の平均的家計への負担額を試算すれば、年間約9万円の負担増となる。現実的には、企業が消費増税の8兆円の負担分のうち3兆円程度は価格転嫁できないと想定される。

 また、内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに経済成長率への影響を試算すれば、13年度は駆け込み需要によりプラス0.5%経済成長率を押し上げるが、14年度についてはマイナス1.0%も経済成長率を押し下げると試算される。従って、外部環境にもよるが、無防備で消費税率を引き上げれば相当景気腰折れの可能性が高まっていただろう。

●外部環境は97年ほど悪くない可能性大

 しかし、消費税率引き上げに伴い、97年度のように日本の景気が後退局面に入る可能性は高くないだろう。

 まず、今回は真水で5.5兆円の景気対策と0.6兆円の追加減税が打ち出されたことがある。そこで、内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに今回の経済対策と減税が経済成長率に及ぼす影響を試算すると、14年度はプラス0.7%経済成長率を押し上げると想定されるため、消費税率引き上げに伴う経済成長率押し下げをマイナス0.3%にとどめることができると試算される。

 また、今回は駆け込み需要の反動減の規模が97年ほど大きくならない可能性が高いと想定される。乗用車については、今のところ97年を上回る駆け込み需要が生じている可能性があるが、家電製品については過去数年の間にエコポイントや地デジ化等、駆込み需要の主因となる耐久消費財の需要喚起策が複数回打ち出されているため、すでに需要が先食いされている可能性が高い。また、97年当時と比べて買いだめがしにくいサービス消費の割合が高まっていることも支援材料だ。

 こうした点で、前回の消費税率引き上げ時よりも駆け込み需要は小さくなると見込まれる。具体的には、97年4月の税率引き上げ時には駆け込み需要が3.3兆円程度あったと試算されるが、14年1-3月期はその約6割の2兆円程度にとどまることが予想される。こうなれば、14年度に生じる反動減も97年度ほどは大きくならないと見込まれよう。

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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