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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第24回

危険ドラッグの摘発が市場拡大という皮肉な事態を呼ぶ“経済学的”理由

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 危険ドラッグが社会問題になり、警察は本気になってその摘発に力を入れている。

 ここまでは正しいのだが、実は従来の覚せい剤と今回の危険ドラッグの摘発は、経済学的にみると正反対の取り組みなのである。そして危険ドラッグ摘発の強化により、ひょっとすると、とても皮肉なことが起きる可能性がある。

 経済学的にみると、ドラッグや覚せい剤の売買にはある特徴がある。経済学なんて高校以来勉強したことがない人も多いだろうが、ちょっとためになる話なので我慢して図1のグラフを見てほしい。

危険ドラッグの摘発が市場拡大という皮肉な事態を呼ぶ“経済学的”理由の画像1

 高校の経済の授業で、需要曲線と供給曲線というのを習ったのを覚えているだろうか。要は価格が高いほど需要は少なく、価格が下がれば需要が増えるというのが需要曲線。その逆が供給曲線。このふたつの交差する均衡点で、モノの価格は決まるというものだ。

 さて、ドラッグの場合、需要曲線にちょっとした特徴がある。直線で描くと縦に近い形で線が立っているのだ。このことは覚せい剤中毒者の気持ちになって考えるとよくわかる。覚せい剤を常用するようになると、とにかくそれが欲しくなる。だから売人から高い値段を示されても仕方なく買ってしまう。少し不謹慎な言い方かもしれないが、もしビールだったら「消費税が上がったから、ちょっと我慢しよう」となるのだが、覚せい剤の場合は「価格が上がっても我慢できない」となるわけだ。これが通常の商品とドラッグの需要曲線が違う点なのだ。

供給側の摘発強化、その重大な欠点

 現在危険ドラッグへの警察の取り組みは、このようなドラッグを販売する販売店やインターネットサイトを摘発することに主眼が置かれているようだ。以前は脱法ドラッグと呼ばれていた通り、基本的には現行法では違法ではないので、利用者を摘発することが難しいという理由があるらしい。そこで販売店を摘発してドラッグを押収した上で、そのドラッグを違法認定して禁止するという手順をとることになる。

 これは経済学的にいうと、どういうことになるのか。

危険ドラッグの摘発が市場拡大という皮肉な事態を呼ぶ“経済学的”理由の画像2

 このようなやり方は、経済学的にいうと「供給曲線をシフトさせる取り組み」ということになる。簡単に言えば、供給側、つまり売人の数が減ってドラッグを手に入りにくくさせる方法で、アメリカの麻薬対策は基本的にこの手法をとっている。日本の警察は、それと同じことを危険ドラッグに対して取り組んでいることになる。

 しかし、このやり方には重大な欠点がある。

 需要側の需要曲線が縦に近い形に立っているドラッグのような商品の場合、売人の数が減ると末端価格が大きく上がってしまう。図で言えば均衡点の縦軸の価格×横軸の数量が「危険ドラッグの業界」の売上高ということになるが、供給側である売人を叩くと、結果として業界の売上高が増えてしまうのだ。

 実際、アメリカの麻薬撲滅の取り組みがうまくいっていない理由は、麻薬販売組織を叩けば叩くほど生き残った販売組織の利益が激増するため、裏組織はリスクをとって麻薬の販売を続けようとする。ここにアメリカ型の麻薬対策の問題点がある。

市場拡大は「収まらない」

 日本をはじめとしてアジアの各国では、麻薬に対するもっと簡単な対策を打ち出してきた。それは麻薬を所持する者への厳罰化だ。日本の法律でも麻薬や覚せい剤の所持に対しては重い刑罰が待っているが、中国やシンガポール、マレーシアといった国々の場合はさらに厳罰で、ある程度以上の量を所持していると死刑になる(量にかかわらず、持っていただけで死刑という国もある)。

 このような厳罰化の取り組みは、経済学的にいうとどのような影響を及ぼすのかというのを示したのが図3だ。

危険ドラッグの摘発が市場拡大という皮肉な事態を呼ぶ“経済学的”理由の画像3

 ドラッグ所持に対して厳罰化を打ち出すと何が起こるかというと、需要曲線が左にシフトする。以前は「ちょっとおもしろそうだから、やってみようか」と思ったであろう初心者が、「死刑になるかもしれないんだったら、けっして近づきたくない」と考えを改めるようになるので、マーケット全体で需要が激減する。そして均衡点である価格も数量も減り、ドラッグ市場全体が小さくなって供給側も大々的には儲からなくなる。

 もともと日本の麻薬や覚せい剤撲滅への取り組みは、このような需要側を減らす試みが中心で、それは経済学的にとても正しいことだった。ところが危険ドラッグの場合、そもそも所持することに対して厳罰化できていないため、従来型の取り締まりができない。そこで苦肉の策として供給側を取り締まっているというのが現状なのだ。それは経済学的にいうと、摘発されたら販売店が店名や場所を変えたりしてイタチごっこが止まらずに、業者がなんとかマーケット拡大の恩恵にあずかろうとする動きを止めることができない。

 危険ドラッグをなくしていくためには、違法なドラッグの定義を変えて「危険なものは全部ダメ」というような強権発動をしないかぎりは、経済学的に分析すれば「収まらない」のである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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