●サービス残業の証拠を集め、未払い分を請求
入社後1カ月、5月の給与明細を見ると、残業代は4万1052円。実際の1カ月の平均残業時間は150時間。法律通りに支払われるとすれば、月の未払い残業代は約20万円に上る計算だ。労働基準監督署が過労死を労災認定するための基準である「過労死ライン」とされている月平均80時間を超えるどころか、その2倍近くに達している。80キロあった体重が3カ月で15キロ減って65キロになり、「このままでは会社に殺される」と退職を決意する。
さらに未払いの残業代約56万円の支払いを求めるため、証拠集めをした。退職の意思を伝える際の上司とのやりとりを録音し、サービス残業を助長するような上司の発言を引き出し、タイムカードの写しを取り、出退勤ノートもつけ、「自分のデスクにある電話機の時刻をスマートフォンで撮る」など、可能な限り残業を証明できるものをデータに残したのだ。
結局、地域労働組合のサポートもあり、未払い残業代のうち50万円が支払われることになったという。会社が管理するためのタイムカードだけではなく、労働者の側でも時間管理のデータを残すことが欠かせないようだ。企業にしてみれば、証拠とともに未払い残業代を請求されれば支払わざるを得ない。
「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/2014年12月20日号)の特集『労基署がやってくる!』では、4年前にハウスメーカー大手の大和ハウス工業が労働基準監督署から受けた是正勧告を紹介している。
「11年1月、同社が受け取った是正勧告は、全社的に未払い残業代を2年分遡及して支払うことと書かれていた。大和ハウスはその指示に従い、グループ全体で32億円もの未払い残業代を払い、急きょ特別損失を計上する羽目になった」(同特集より)
会社側にとって残業は損失リスクであること、労働者側は自らの時間管理が欠かせないことを再認識すべきだろう。
(文=松井克明/CFP)