「スクリーンとやりとりする」映画『キンプリ』、20回以上も劇場で観る客続出で異例ヒット
キンプリに愛着を感じるワケ
このキンプリは、なぜこれほどまでにヒットしたのか。行動経済学で理由を分析してみよう。
まず第一に、この映画は観客の誰もが参加できる。場合によっては、自分の発するコールで雰囲気を変えることも可能だ。こうして上映に関わることで、映画に対する愛着が生まれる。繰り返し観ることでその気持ちは増していく。
そこで観客の心理においては「保有効果」が働くと考えられる。保有効果とは、自分が所有するものに高い価値を感じ、手放したくないと感じる心理現象だ。キンプリの場合、手放すとは通うのをやめることである。応援上映に関わるほどに、参加し続けたいと思う心理は強く働く。
キンプリをコンプリートしたくなる観客たち
また、キンプリのストーリーには、かなり多くの要素が詰め込まれている。主人公の日常、ダンスシーン、友情から格闘までさまざまなシーンがスピーディに展開する。一度観ただけでは、完全に内容を把握し切れない。2回、3回と足を運ぶことで、ストーリーやそこに含まれる意味が徐々に理解できる。同時にサイリウムの使い方やコールの合わせ方も上達する。
この時、観客のなかで「コンプリート」したくなる心理が働いていると考えられる。行動経済学の「確率加重関数」で示されているように、人間は100%の状態に高い価値を感じるものだ。確率では99%と100%の差は1%でも、心理的にはそれ以上の開きがあることが証明されている。キンプリの応援上映に参加することでレベルアップ感を感じた観客は、より上を目指したくなるのである。
始めたら止まらない、の心理
とはいえ、1回の上映時間が約1時間で1600円の映画を繰り返し観るというのは、客観的に見れば不思議な消費だ。ここでは「サンクコスト効果」の心理が働いている可能性がある。これは、いったん支出や投資を始めると、途中で無駄だとわかっていても続けてしまう心理的傾向のことだ。
キンプリに通うことをやめれば、過去に注ぎ込んだ時間や労力などのコストが無駄になる。これを避けたいと思う心理は、通うほどに強くなる。その結果、何度もキンプリを観に通うことになる。
このようにキンプリには、観客たちが「ハマる仕組み」が数多く仕込まれているのである。