この一体感の秘訣は応援団にある。日本のプロ野球では、応援団の多くが私設だが、韓国ではイベント会社に所属するプロの応援団たち。観客たちを盛り上げ、一体感を演出するためのノウハウを心得ているのだ。観客席にあるステージで、応援団長やチアリーダーたちが踊り、観客たちが熱狂する様子は、さながら野外フェスのようだった。
エンタメとしての演出も豊富だった。ビデオ判定の際には『名探偵コナン』のBGMが流れたり、大型ビジョンに映し出されたカップルがキスをしたり。ユニークなのは試合終盤。観客たちは配布された朱色のビニール袋を膨らませ、頭にかぶり始めた。この袋はもともと、ゴミ袋として配られていたのだが、観客が頭にかぶったことから普及。今では試合終盤の定番となっているのだそう。ちなみに、頭にかぶる前提で、今ではビニール袋へのデザインも上下逆さにプリントされているという。
印象的だったのは、飲食物の持ち込みが目立ったこと。ピザやチキンなどのつまみやビールを広げ、球場のあちこちで宴会が開かれていた。
なかには試合そっちのけで、宴会に夢中になっているグループもいた。「試合を観なくていいんですか?」と聞くと、「(ひいきのチームが)攻めているときだけ応援するんだ。守りのときは、点を取られないって信じてるから、いいのさ」とのことだった。そして、料理やお酒を「食べろ!」「飲め!」とわけてくれた。日本でも、屋台やお花見などの席で、隣り合った人たちと仲良くなることがある。韓国では、それが野球場でも実現されていた。
韓国のプロ野球は、なぜこのような楽しみ方が定着しているのか。そして、若者たちに支持されている理由はなんなのか。韓国プロ野球に精通するストライク・ゾーン社代表の室井昌也氏に聞いた。
野球の歴史自体が浅いことも奏功
――韓国のプロ野球は、観客の約40%が女性で、世代別では20代が42%、30代が26.8%だそうです。実際に球場でも若者・女性の姿が目立ちました。なぜ、その層の取り込みが実現できているのでしょう。
室井氏 韓国のプロ野球では、「野球はこう見るべき」というコア層の固定観念が、日本に比べて薄いのです。それによって、新規ファンが球場に足を運ぶハードルを下げているのではないでしょうか。また中継映像では、若者たちが球場で楽しんでいる姿が数多く映し出され、「野球はおじさんのもの」「ダサい」という印象がないことが影響していると思われます。