――野球にあまり興味がなくても、球場へ“飲み”や“デート”の感覚で来ている方が多い印象でした。そういった風土はなぜ根付いたのでしょう。球団・プロ野球関係者の働きかけや工夫か、もしくは別の要因なのでしょうか。
室井氏 韓国のプロ野球界では、以前からファンに対して、「野球場はストレス解消の場」という認識があり、日本のような堅苦しさはありませんでした。日本と比較すると、野球の歴史自体が浅いことが、そうさせているのではないでしょうか。
――エンタメ演出が盛りだくさんでしたが、「これぞ韓国野球!」という、観客を喜ばせるための演出はなんでしょう。
室井氏 イニング間に大型ビジョンに映し出されるイベントのひとつで、「ビール早飲み対決」があります。勝者には、スポンサーのビールメーカーからビールが大量にプレゼントされ、球場が沸きます。日本ではコンプライアンス的に絶対無理ですよね。
――韓国のプロ野球の観客動員数は、00年代前半は年間200~300万人だったそうです。しかし、17年に過去最多の年間840万人を超えました。十数年でなぜここまで増えたのですか。
室井氏 00年代前半は、人気球団のロッテジャイアンツが4年連続最下位と低迷し、ファンの球場離れが顕著でした。けれど07年に復活の兆しを見せ、08年~12年まで続けてポストシーズン進出を果たしたのです。球団の活躍によって、ファンがホーム・ビジター問わず球場に足を運び、観客数が増えました。潜在的ファンが戻ってきた、ともいえるでしょう。
また08年の北京五輪では、若手選手中心の代表選手が活躍し、9戦全勝で金メダルを獲得。多くの若者たちがその戦いに注目し、新規の野球ファンが増えました。その熱気が冷めやらぬまま、翌年のWBCでは準優勝したことで、さらに人気が定着したのです。
――韓国では球場だけでなく、ケーブルテレビでも野球の視聴率が高いと聞きます。野球人気自体が高いといえるのでしょうか? また、その理由はなんでしょう。
室井氏 韓国は飽きさせない野球中継の見せ方が上手です。メジャーリーグや野球ゲームを参考にしたような細かいスイッチング、約17台ものカメラを使用、4Dリプレイやスーパースローなど最新技術の導入、見る人の感情に訴えかける構図など、初見の人でも感情移入できるような映像をつくっています。最近は日本でも、玄人好みするようなプレー全体を映す画づくりから、韓国のような手法に変わってきていますね。
――ありがとうございました。
総合的なエンタメ空間
プロ野球観戦というと、「野球を観る」「ひいきのチームを応援する」というイメージがある。もちろん、その通りなのだろうが、韓国の人々はもっと自由に、球場という空間自体を楽しんでいる印象だった。野球が主役ではあるが、決してそれだけが目的ではなく、球場の雰囲気や演出やグルメなども含め、総合的なエンタメ空間となっている。実際、観客の間には野外フェスのようなノリや一体感があり、韓国の野球選手のことをほぼ知らない筆者でも楽しめた。
野球のあり方や楽しみ方が異なるため、韓国の取り組みをそのまま日本に適用しても、若者や女性の増加につながるとは限らない。しかし、何かしらのヒントになることは間違いないだろう。WBCやオリンピックなどで激闘を繰り広げてきた日本と韓国だが、興行という意味でも切磋琢磨し合い、互いの野球文化の発展に貢献していくことを願いたい。
(文=肥沼和之/ジャーナリスト)