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小澤貴子「化粧品のウソとホント」

40代でブームの男性用化粧水、逆に肌トラブルの例続出…買ってはいけない商品の見抜き方

文=小澤貴子/東京美容科学研究所
40代でブームの男性用化粧水、逆に肌トラブルの例続出…買ってはいけない商品の見抜き方の画像1
「Getty Images」より

 ここ5年ほどのコスメ業界における大きな変化の一つとして、中年男性用コスメの普及が挙げられます。大手メンズブランドの成長に伴い、ここにきて一気に働き盛りの男性に化粧水ユーザーが増えました。

 本連載で以前、乳液は本来不要な商品であるにもかかわらず、化粧品業界が必需品だという印象を世間に植え付けることで、売れ筋アイテムに急成長した実態をご説明しました。皆さんが企業の経営企画部所属だったとして、人口減少国の日本でどうビジネスを展開しますか? ビジネス書によく躍る「市場開拓」という文字。まさに、中年男性用の化粧水は、長年化粧品業界が淡々と狙ってきた新市場であり、残された数少ない「フロンティア」なのです。

化粧水って何?

 女性と男性の肌の一番の違いは、皮脂の分泌量です。皮脂はホルモンにより分泌されるため、40歳前後を過ぎると急激に分泌量が減少する女性と異なり、男性は思春期を超えた後は皮脂が安定して分泌され続けます。皮脂が分泌されると、皮膚表面で共存している微生物の出す酵素によって、肌の表面が弱酸性に保たれるようになります。皮脂の少ない女性は、弱酸性に保つ能力が衰えてくるので、酸を補充する酸性化粧水が必要になるのです。

 もともと化粧水を使用する目的は、以下の3つです。

(1)石けんを使った洗顔や髭剃りをした後のつっぱり感を取り除き、肌を弱酸性にする(強すぎる洗浄剤は肌荒れの原因になるので、石けんがお勧めです)

(2)肌にパッティングなどでほどよく刺激を与えることで、新陳代謝を促す

(3)酸性の環境を整えることで、肌のトラブルを防ぐ

化粧水って、男性も使ったほうが良いの? 使い方は?

(1)については、男性は年齢を重ねても皮脂の分泌量が衰えないので、必ずしも使わなくても構いません。そもそも、つっぱりを感じる方のほうが少ないはずです。また、(2)については、男女ともに加齢により新陳代謝は衰えるので、男性も積極的に取り入れたほうがよいでしょう。

(2)は、特に男性にお勧めの使用目的です。皮膚表面の微生物にも、善玉菌と悪玉菌が存在していますが、ニキビや肌トラブルをもたらしやすい悪玉菌は酸性の環境を嫌うことが多いからです。汗をかくと、pH(酸・アルカリの度合いの指標)も偏りがちになります。皮脂分泌と活動的発汗量の多い男性にお勧めなのは、酸性化粧水です。

 男性向け化粧水は、男性専用化粧水である必要はありません。むしろ、乾燥肌の男性が増えていることを考えると、すっきり爽快さを前面に出した脱脂力の強い化粧水を避けて、水にアルコールを含むシンプルなベースに、引き締め効果のある成分を配合した酸性化粧水がお勧めです。

こんな成分は要注意!

 男性用化粧品の特徴は、洗顔フォームや髭剃りフォームに強すぎる洗浄成分が多く含まれることです。特に体臭が気になり始める40代男性はこうした商品を使用する機会が多いでしょうから、注意が必要です。男性は年齢によらず皮脂が多いことから、ニキビなどの皮膚トラブルを防ぐ目的で、殺菌剤(※)や強い洗浄成分を含むことが多く、そのために従来はほとんどみられなかった強い乾燥肌で悩む男性が増えてきています。

(※殺菌剤は医薬部外品のみに含まれています)

 こうした背景から、男性用化粧品にも保水や美容成分などの機能を持たせた機能性化粧水が増えてきています。ただし、こうした機能性化粧品には、浸透剤の配合が多いという特徴があります。化粧品では、「浸透」は「角層」「角質層」までと薬機法で定められています。広告や有効性表示も「角層まで」と併記必須です。ただし、角層よりも深部にまで浸透してしまう成分がないと断言はできません。また、こうした成分が皮膚トラブルや敏感肌になる原因の一つとも考えられています。つまり、「ほどよい刺激」に留めることが難しいのです。

40代男性、化粧水の選び方

 一番わかりやすい方法は、洗浄や浸透剤の成分になりそうな合成界面活性剤の成分が、複数種類以上含まれないこと。また、皮脂を酸性に保つために、微生物の生育環境を保つ必要があります。そのためには、微生物が食べることができない合成ポリマーの量が少ない商品を選ぶことも大切です。

 今回、筆者はドラッグストアでランダムに男性用化粧水を入手してきました。一般的な例として、それらの成分を以下に掲載します。全成分記載のうち、上位に書かれているものほど配合量が多いです。

【全成分】

水、エタノール、DPG、グリセリン、BG、メチルグルセス-10、PEG/PPG-17/4ジメチルエーテル、PEG-6、PEG-32、PEG-60水添ヒマシ油、エリスリトール、PEG/PPG-14/7ジメチルエーテル、アセチルヒアルロン酸Na、ヒアルロン酸Na、ジグリセリン、水添ポリデセン、イソステアリルアルコール、イソステアリン酸、クエン酸Na、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2、EDTA-2Na、クエン酸、トコフェロール、フェノキシエタノール、香料

 このうち、合成界面活性剤は下記の4つです。

・PEG/PPG-17/4ジメチルエーテル

・PEG-60水添ヒマシ油

・PEG/PPG-14/7ジメチルエーテル

・ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2

 また、合成ポリマーは以下の5つです。

・メチルグルセス-10

・PEG-6

・PEG-32

・アセチルヒアルロン酸Na

・水添ポリデセン

 皮脂を気にしすぎて洗浄力の強い成分を含む製品を使い続けていくと、皮脂腺の細胞にダメージを与えて、男性なのに乾燥肌に悩む方も増加中です。ホルモンという調整機能とともに分泌されるため、残念ながら皮脂は取ろうとすればするほど分泌されてしまいます。取れば取るほど脂性肌になってしまうのです。また、誤ったお手入れを長年続けると、皮脂腺が退化して乾燥肌になる恐れもあります。

 男性にも化粧水はお勧めですが、女性よりも強い肌を想定した商品が多い以上、成分には十分気をつけて選んでください。

(文=小澤貴子/東京美容科学研究所)

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マウスの表面に石けんを塗布したもの(左)と、合成界面活性剤を塗布したもの(右)。 石けんを塗布しても、皮膚の断面は通常皮膚からの変化は見られず、皮脂腺組織が付属している毛根も正常どおり見られます。合成化面活性剤は、毛根細胞が死滅したため、脱落して垢となって皮膚表面から剥がれ落ちる状況が確認できます。皮脂が分泌される皮脂腺は、毛根に付属した細胞のため、毛根が脱落すると皮脂を分泌することができなくなります。合成界面活性剤や強すぎる洗浄剤の使い過ぎは、乾燥肌の原因となります。(写真提供:柿の葉会(企画制作)/元国立三重大学学長 三上美樹(監修指導)「界面活性剤は安全か!?(第一部)」―合成洗剤の生物への影響―より)

小澤貴子/東京美容科学研究所

小澤貴子/東京美容科学研究所

工学博士(応用化学専攻)
1975年生まれ。上智大学理工学部化学科卒業後、応用化学修士課程に進学。修士課程修了後、大手化学会社の研究員を経て、上智大学理工学部化学科非常勤助手として研究に携わる。
その後、祖父の代から続く、東京美容科学研究所に入所、肌と美容の研究の道へ。現在、同研究所にて、化粧品の研究とともに、正しい美容科学の普及に努めている。理美容のプロおよび一般の人々に対して、肌の生理や化粧品についての知識の向上を目指すべく、教育普及活動にとくに力を入れ、全国で講習会や講演を行っている。

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