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大西睦子「ボストン健康通信」

食肉原産国表示、義務付け撤廃…遺伝子組み換えサーモンも 食の安全より経済利益優先

文=大西睦子/内科医師、医学博士
食肉原産国表示、義務付け撤廃…遺伝子組み換えサーモンも 食の安全より経済利益優先の画像1「Thinkstock」より

 キングサーモンというと、何が浮かびますか?

 キングサーモンは、アラスカ、北太平洋やオホーツク海に生息していて、日本ではほとんど釣れない「巨大」な鮭です。アラスカの雄大な自然を背景に、キングサーモン釣りに挑む作家の開高健さんは『河は眠らない』で、「何かを手に入れたら何かを失う。これが鉄則です。何ものも失わないで、何かを手に入れることはできない」といいます。

 さて、最近「遺伝子組み換えサーモン」が話題になっています。成長を早めるために、アトランティックサーモンに、キングサーモンが持つ成長ホルモン遺伝子を導入しています。市場にある従来の鮭のサイズになるまで、なんと半分の期間で成長します。この夢のようなサーモンが11月19日、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)にて、動物では初めての遺伝子組み換え食品として承認されました

 FDAは遺伝子組み換えサーモンについて、「厳しく科学的な評価を行った結果、通常のサーモンと安全性や栄養価が同じ」「環境への影響はない」という判決を発表しています。ところが、このFDAの発表に、多くの米国民は警戒心を抱いています。「アクアドバンテージ(AquAdvantage)」と命名された遺伝子組み換えサーモンは、消費者からは、フランケンシュタインにちなんで「フランケンフィッシュ」、あるいは「ミュータントサーモン」とも呼ばれています。

 さらに、環境保護団体「Friends of the Earth」によると、FDAの発表直後に、米国の9000以上の店舗をもつ60以上の人気の食料品チェーン店は、遺伝子組み換えサーモンの販売を拒否することを公表しました

 そこで今回は、話題の遺伝子組み換えサーモンと、遺伝子組み換え食品の表示についてのお話です。

遺伝子組み換えサーモンはどこにいるの?

 遺伝子組み換えサーモンは、米国マサチューセッツ州に本社があるバイオテクノロジー企業、アクアバウンティ・テクノロジーズ(AquaBounty Technologies)が開発したもの、野生の鮭との接触を防ぐため、パナマやカナダの地上のタンクの中で育てられています。そこでFDAは、遺伝子組み換えサーモンが自然の環境に放される可能性は極めて低く、環境への影響はないと判断しました。

従来のサーモンと区別はできる?

 残念ながら、消費者の私たちは、見た目や味で両者の区別はできません。米国では遺伝子組み換え食品の表示の義務がないため、消費者は、「自分が食べているものを知る権利がある」として表示を求める運動を起こしています。FDAによると、両者を区別するために販売店が自主的に表示を行うことは可能です。

大西睦子/内科医師、医学博士

大西睦子/内科医師、医学博士

内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。

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