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白井美由里「消費者行動のインサイト」

お金の使い過ぎが、さらなる使い過ぎを生む「どうでもよくなってしまう効果」

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授
お金の使い過ぎが、さらなる使い過ぎを生む「どうでもよくなってしまう効果」の画像1
「Getty Images」より

 本連載の前回記事では、ダイエット中の人に発生しやすい「どうでもよくなってしまう効果(What-the-hell effect)」について説明しました。これは、ダイエット中の人が高カロリー食品をたくさん食べてしまった後に、別の高カロリー食品を見せられると、その食品をさらに食べてしまい、全体的に見てかなり食べ過ぎてしまう現象のことをいいます。今回は、この現象がお金の使い方でも発生することを説明したいと思います。

 お金の使い過ぎはいろいろな問題につながるので、多くの人は自分の自由裁量所得を意識し、欲しいモノがあれば、その範囲内で買えるモノを選んだり、他の支出を抑えたりするなどして、支出を管理されていると思います。また、例えば、「毎月3万円を貯金する」といった具体的な目標をたてている方もいるでしょう。

 しかし、このような明確な目標を持っているにもかかわらず達成に失敗し、使い過ぎてしまうことがあります。それは、毎月3万円の貯金という明確な目標は、達成できれば「成功」、少し足りなかっただけで「失敗」という白か黒かの二択思考で判断されるからです。このときの失敗という判断からは強いネガティブな感情が生じます。もしも目標が「少しずつ貯金額を増やしていく」といった曖昧で段階的なものであれば、「成功」の焦点は貯金額に向けられるので、二択思考ではなくなり、失敗したという評価はされにくくなります。つまり、明確な目標の継続は難しいということになります【註1】。

自由裁量所得内で支出を抑えるという目標達成に失敗するとき

 それでは、支出における「どうでもよくなる効果」の研究を見てみましょう。ソマンとチーマは、毎月一定額を貯金するという目標の継続に失敗する状況を分析しています【註1】。ソマンらは、この目標がそれまでは達成できたとしても、使い過ぎによる失敗が一度発生すると、「どうでもよくなる効果」が発生して、さらに使い過ぎてしまうと予想しました。

 ソマンらの行った実験は次のとおりです。被験者には、自由裁量所得(月給から必要な支出を差し引いた額)の内、毎月一定額の貯金という目標を、これまでほとんど達成してきたこと、そして現在は月末であり、自由裁量所得の残額について香港ドルで1500ドル、500ドル、マイナス(使い過ぎ)のいずれか一つを想定してもらいました。続いて、異なるアーティストによる3つの音楽イベントのセット券(1500ドル、特典あり)の購入を友人から誘われており、被験者自身も関心があると想定してもらい、このセット券の購入意向を回答してもらいました。

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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