老化を遅らせる食生活指針の主要なポイントについて、これまで数回にわたりお話ししてきた。ところで、この食生活指針を実践すると本当に老化が遅れるのだろうか。小欄の読者の方々誰もが気になるところだろう。
実は、この食生活指針の有効性を実証する「老化を遅らせる食生活指針の介入研究」(実際に試して実行可能性、有効性、副作用を確かめる研究手法)を筆者らの研究チームは約25年前(研究期間1993~95年)に世界で初めて挑んで成功させている。老化研究を身近に感じるようになったのは、大手メディアが酵母菌から長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)が発見されたことを報じたことが始まりのような気がする。さらに、米国のアカゲザル数十匹を20年あまり実験観察した研究が、カロリー摂取を制限すると余命が伸びると発表したことも大きく影響していると思われる。この件については小欄でも以前解説したことがある。その後、これらの研究情報は、抗酸化物質のサプリメント(レスベラトロールなど)人気やカロリー摂取制限ブームをもたらしている。
しかし、小欄など健康科学の実践研究者からすれば、研究対象がもっとも人間(ヒト)に近縁のものでもサルであることは致命的と映る。物議が及んだせいもあるだろう、アカゲザルにおける成果を発表した研究チームは、カロリー制限の老化遅延は「サルでは認められた」と最終的にはトーンを弱めている。われわれ人間を対象とした研究で、抗酸化物質のサプリメントを服用することが長寿遺伝子を活性化させ余命を延ばすという知見も、カロリー制限することが余命を延ばすという知見も今のところはない。いや、このような知見は表出させること自体無理だろう。科学研究における生命倫理指針に抵触し、研究自体が不可能だからである。
そこでわれわれ人間の健康に資する老化研究では、老化を直接反映する指標を選び観察して老化の遅延効果を確認する方法をとることになる。老化は連続的な変化なので、数値で観察することができ、その大小で比べられるのがベストである。この条件を備えたもっともわかりやすい鋭敏な指標が、最大歩行速度と血清アルブミンである。最大歩行速度が速く、血清アルブミンの量が多いシニアほど老化が遅く進むことは既知の事実である。重要なのは効果を確かめようとする手段が普段の生活習慣の改善のように、普遍的で誰でもお金をかけることなく、長期にわたり続けられものであるかどうかである。
これらの必須条件から「老化を遅らせる食生活指針」(連載23~27参照)の実践を促し、普段の食事習慣を改めることが血清アルブミンを実際に増加させることができるか実証する介入研究を行った。食生活指針の実践による老化遅延の研究は、シニア集団のサイズを変えた2つの段階を踏み進行させた。今回は第1段階の有料老人ホームに在住する元気なシニア約50人を対象とした、2年間の介入研究の成果について紹介しよう。