なぜ老化は起こるのか?
年を取りたくないというのは、人間なら誰しもが思うことです。なぜ年を取るのが嫌なのでしょうか? もちろん死ぬことが怖いというのは根底にありますが、体が衰えて自由に動けなくなったり、他人の手を借りなければ生きることが困難になったりすることが、大きな部分を占めているように思います。
年齢にともなって体の働きが衰えることを老化といいます。要するに、多くの人が嫌なのは、年を取ることではなく、老化することなのです。
それでは、年を取ることと老化とは、どのように違うのでしょうか?
ウェルナー症候群という遺伝性の病気があります。老化が急激に進むように見えることから、早老症と呼ばれることもあります。この病気においては、20歳以降に白髪や脱毛、白内障、動脈硬化の進行、骨粗鬆症などが見られます。皮膚は萎縮して薄くなり、がんも増えます。ここで挙げたような項目が、要するに老化によって体に起こる変化の代表的なものなのです。
この病気は遺伝子が原因で老化が起こります。
つまり、老化という現象のすべてではなくても、多くの部分は遺伝子に原因がありそうです。
老化を止める遺伝子の発見
老化という現象は遺伝子に原因があることはわかりました。
それでは、老化を止める遺伝子というものもあるのではないでしょうか?
なぜ、こうした発想をするかというと、がんなど他の多くの病気でもそうですが、病気を起こす遺伝子よりも、それを抑えている遺伝子のほうが重要であることが多く、治療や予防にも結び付く可能性が高いからです。
1997年の「Nature」誌にネズミの老化抑制遺伝子についての論文が発表されました(文献1)。筆頭著者は当時東京大学の黒尾誠先生です。黒尾先生の書かれたものによると、ネズミの遺伝子操作の研究の過程で、たまたま異常に老化の進むネズミの家系を発見し、その遺伝子を解析したところ、老化を抑制する遺伝子の発見に至ったのです。
その遺伝子は、ギリシャ神話の「生命の糸」を紡ぐ女神クロトー(Klotho)にちなんで、クロトー遺伝子と名付けられました。