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白井美由里「消費者行動のインサイト」

なぜバッグ購入より旅行のほうが満足度高い?モノ購入の幸福度が経験購入より低い理由

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 これが今回のテーマです。この2つの購買を比較する実証研究が、初めてヴァンボーヴェンとギロヴィッチによって行われ、注目を集めました【註3】。被験者に自分の人生の幸福度を高めるために過去に行ったマテリアル購買、あるいは経験的購買について思い出してもらい、幸福に感じた程度を回答してもらう調査を行いました。その結果、幸福度はマテリアル購買よりも経験的購買のほうが高くなったのです。また、経験的購買のほうが、良いお金の使い方をしたと感じ、思い出したときの気分も良かったことも報告しています。

 それでは、なぜマテリアル購買よりも経験的購買のほうが、購買後の幸福度が高くなるのかを考えてみましょう。

(1)ヘドニック・トレッドミル

 理由は3つにまとめられます。関連する理論として、ブリックマンとキャンベルが提唱した「ヘドニック・トレッドミル」があります【註4】。この理論は、たとえばモノの購入や経験によって幸福に感じたとしても、人はやがてその状態に慣れてしまうので、その幸福感は次第に薄れていくこと、したがって全体的な幸福度はかなり安定していることを説明します。ニコラオらは実験を行い、この慣れるスピードがマテリアル購買よりも経験的購買のほうが遅いことを実証しています【註2】。遅いということは、時間の経過による幸福感の減少幅が小さいことを意味しますので、経験的購買のほうが幸福感は高くなります。これがひとつめの理由です。

(2)購買意思決定プロセスの違い

 ふたつめの理由は、両者の購買意思決定プロセスが異なることです。カーターとギロビッチは一連の調査から、マテリアル購買では多くの選択肢を比較しその中からベストなものを選択する「最大化戦略」が採用され、経験的購買では品質やパフォーマンスについて最低基準を設定し、それを満たす選択肢に出合った時点で探索を終了し商品を購買する「満足化戦略」が採用される傾向にあることを実証しています【註5】。

 マテリアル購買の場合、たとえばテレビでは、サイズ、画質、機能、価格など属性による商品比較が比較的容易にできるため、より多くの商品を比較しようと動機づけられます。結果として、選択は難しくなるのです。また、購入後は使用が継続しますので、次々と売りだされる類似の新商品との比較が行われやすくなります。つまり、比較は購買時点だけでなく、購買後も続くのです。

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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