定年後の「定活」は50歳から始める!カギは住まい、5つの選択肢のポイント&注意点
大きな転機をしっかり乗り切るためには、そのための準備が必要だ。近年は「就活」に加え、「婚活」「妊活」「終活」などが注目されるようになってきた。「人生100年時代」に向かう中、重要度を増しているのが「定活」だろう。
「定活」というと、仕事のことや年金のことなどマネープランを考える人が多いが、人生の後半戦のライフプランを考えるのだから、「住まい」をどうするかが実は重要な課題になる。「住まいの定活」は定年間際では遅すぎるので、50歳にはぜひ活動を始めてほしい。
「住まいの定活」のススメ
ある人は、自然豊かな場所で暮らしたいと、田舎暮らしを始めた。ある人は、ボランティアに励みたいと、どこにでも移動しやすいターミナル駅に住み替えた。ある人は、夫婦二人きりの生活を楽しもうと、地縁を切って都心のコンパクトマンションに住み替えた。
実は、これまで以上に選択肢が増える住まい選びこそ、定活のカギを握る。これまでは通勤場所からの距離に制約があったり、子どもの教育の場と関連があったりして、立地にせよ広さにせよ住まい選びの選択肢にはある程度の制約があった。ところが、定年後はこうした縛りが減るので、自由度が広がる。
したがって「住まいの定活」は、これまで通りの暮らしの延長上ではなく、新しい発想で人生の後半戦の暮らしを考えるチャンスとなる。
はいえ、人生100年と考えると、現実的には、まだ先の長いライフプランを支えるマネープランと合わせて考える必要がある。だからこそ、早くから定活をスタートさせてしっかりと準備をするべきだろう。
アクティブ期とケア期で分けて住まいを考える
まずは、人生の折り返し地点で、今後の人生を再設計することが大切だ。そのときに、お金は足りるのかなど、不安から入ると身動きしづらくなるので、「どこで」「誰と」「どのように」暮らしたいかを考えてほしい。
以前、60代の女性から住まい選びについて聞かれたことがある。ご主人と死に別れ、子どもも育ったので、住み替えるなら介護の整った有料老人ホームなどを探すのが良いかと。
筆者は「まだ元気なのだから、人生を楽しめる住まいを考えたほうがよい」と伝えた。60代にはまったく見えないほど若々しい方だったので、仲間を作って趣味に興じる暮らしもできるだろうし、再婚することもあるかもしれないし、当面は介護に備えるより今を楽しむ暮らしをしたほうが良いと思ったからだ。
健康上で問題がない限りは、定年直後の「アクティブ期」と介護を見据えた「ケア期」では、住まいの考え方を分けて考えたほうがその後の人生が充実するはずだ。
たしかに介護を見据えると、思い浮かぶのが手厚い介護サービスを受けられる施設だろう。それはそろそろ介護が必要になる、75歳以降などの「ケア期」に向けて考えること。元気なうちは、当面の10年、15年を快適に暮らせる拠点を選んでほしい。
その場合、次のような選択肢がある。
どこで、誰と、どのように過ごすか、人生の再設計を
「ケア期」になると、介護サポートをどこでどのように受けるかがカギになり、自宅介護か、民間の有料老人ホームか、低額な公的の介護施設か、サービス付き高齢者向け住宅(賃貸)かなど、介護度や老後資金によって選択肢は絞られる。
一方、75歳程度までの「アクティブ期」には、誰とどこでどのように暮らして、生活を満喫するのかを考えよう。
今の時代は、仕事をどうするかもセットで検討することになる。政府は、希望すれば70歳まで働き続けられる環境を整えようとしている。したがって、定年延長などで雇用を継続するのか、スキルを活かして転職や起業などをするのか、スキルを収入の手段というより社会貢献のような形で活用するのか、仕事はしないのかなどによって、拠点とする場所の考え方も変わってくる。
その一方で、どこで誰とどのように暮らすかを考えたい。
(1)今の住まいに住み続ける
(2)今の住まいの近くに住む
(3)親の家の近くに住む
(4)子どもの家の近くに住む
(5)新しい土地で暮らす
今の住まいに住み続けるのも選択肢だが、“住み慣れた家”が必ずしも住みやすいとは限らない。子育ての拠点だった住まいは広すぎたり、段差が多かったり、駅から遠かったりすることも多いので、本当に住みやすいかどうかを再検討する必要がある。
また、住み続けるにしても、家の耐震性の確認やバリアフリー化などの安全面を確認したり、家事効率の良い水回りの設備に交換して家事負担を減らしたり、一戸建ての2階を減築して移動効率を上げたりと、なんらかのリフォームをすることをお勧めする。近年ではリフォームで相当な改修ができるので、建て替えを検討しなくても済む場合が多い。ただ、二世帯住宅にするなどで建て替えたほうがよい場合もあるだろう。
また、「地縁」ネットワークの中で暮らし続けたいと、今の住まいの近くで駅に近いマンションに住み替える人も多い。一戸建てからマンションに住み替えることでセキュリティや利便性が向上することに加え、仲間の近くに住み続けることができるからだ。
親の介護を考慮して、親の近くに住む人もいれば、独立した子どもたちと行き来しやすい場所に住み替える人も多い。いわゆる「近居」だ。一方、夫婦二人の生活を楽しみたいと地縁や親子との距離よりも、都心のエンターテイメントや豊かな自然との距離を近くしたいという人もいる。夫婦仲の良い場合やアクティブな暮らしを希望する場合に多い。
なかには、都心部と地方など二地域に拠点を設けて、行き来しながら生活を楽しむ人もいる。新しい土地に完全に拠点を移した場合、その地域のネットワークに溶け込めなかったり、冬の寒さや降雪対策に耐えられなかったりして、住み続けられない事例も見受けられる。体験宿泊を繰り返すなどの準備期間を置いてから拠点を移すか、二地域居住をするかなどは有効な方法だろう。
新たに買うか借りるか、今の家を売るか貸すか
セカンドライフでは、ぜひコンパクトな暮らしを考えてほしい。「子どもが泊まりに来るかもしれない」と使わない部屋を確保したり、人生の前半戦でストックされた不要なモノをそのまま持ち込もうとして「荷物が多いから」と広い家を探したりするのは、おススメしない。人生の再設計とは、過去より未来を見据えることなので、不要なモノは早めに処分して、これからの生活に必要なモノだけにするのがおススメだ。
都心部では特にコンパクト化を意識したい。小さい家なら購入費用を抑えることができるし、売却する際にも小家族が多いので売りやすい。一方、地方に移り住む場合は住宅価格も賃料も低額なので、負担が少ない分だけマネープラン上でやりくりしやすい。
住み替え先の住まいを買うのか借りるのか、今の家を売るのか貸すのかは、マネープランによるところが大きいので一概には言えない。
ただ、ケア期に住み替えるときには、有料老人ホームの利用権の費用やサービス付き高齢者向け住宅の賃料の前払いなどで、まとまった資金を支払うことも多い。家を売却して手元に残るお金で、そうした費用に充てられるのが望ましい。そのためには、アクティブ期の家の資産価値が落ちにくいかどうかは考慮しておきたい。今の時代の住まい選びでは利便性が特に重視されるので、駅に近く街に賑わいがあるなど、多くの住み手が希望する条件に合致している家かどうかを意識しよう。
今の家は、持ち続けるか売却するかになる。売らずに持ち続けて、ケア期に貸す選択肢もあるが、貸すとなると大家業を営むことになり、補修費用や税金などさまざまな対応が求められるので、安易には考えないほうがよいだろう。
今の家を持ち続けたいがリフォーム費用を捻出できないという場合、「リバースモーゲージ」を利用する方法もある。リバースモーゲージは、取り扱う金融機関や対象になる住宅はまだ少ないが、死亡時に家を売却して清算する形でローンを組む方法だ。家を相続させることができなくなるが、今の時代、家を欲しがる子どもたちは少数派かもしれない。
今の家を売却する場合、売るタイミングも気になるところだろう。住宅市場は景気や住宅政策などの影響も受けるので、不透明なところもあるし、家の状態や条件などによっても判断が変わってくる。
例えば、全国宅地建物取引業協会連合会が2019年に全国の20歳以上に実施した「住居の居住志向及び購買等に関する意識調査」では、自然災害が増えていることで、「築年数や構造(免震・耐震)について考えるようになった」人が49.6%と半数近くを占めた。築年数などを気にする人が多い中、家が古いならより老朽化する前に売却したほうがよいかもしれない。
だからといって、売却するためにリフォームをする必要はない。今のマイホーム購入層は、自分好みにリフォームすることが一般化してきているので、リフォームで見栄えをよくしてその分高く売ろうとしても、好みとは違うリフォームだからと買い手がつかない可能性もあるからだ。
いずれにせよ、適切なアドバイスをしてくれる仲介会社などに相談しながら、自分自身で今の家や住み替え先の価格や賃料などの住宅相場を把握し、しっかりとした「住まいの定活」をすることが大切だ。早く動き出す=準備期間が長いほど、金銭的・精神的な余裕が出てくるので、ぜひ早めにスタートしてほしい。
(文=山本久美子/住宅ジャーナリスト)