およそ1カ月半後の2月6日までに、ツイートの数が1,731にも上っている。つぶやきを見ると「おっと気をつけよう!」「また1つ走らない理由が……」などと、いろいろな反響がある。この記事は、米国ニューヨークの日刊新聞「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)がオンライン版で11月27日に出した『One Running Shoe in the Grave』という記事の内容を紹介するものだ。日本語にすれば「片方のランニングシューズは墓場の中に」といったところか。
「WIRED」は、リード文で「1週間に30~40km以上を時速12km以上で走ることは、健康を害し寿命を縮めて、心筋梗塞のリスクを高め、運動不足に陥っている人に起こるのと同じような被害をもたらすことが、研究によりわかった」と記し、読者の関心をひく。
そして、具体的な研究結果を紹介する。「普通のランニングをした人は、しなかった人よりも、19%死亡率が低かったことが確認されたが、ハードなランニングをした人は、この恩恵を受けなかったことも観察された」といったものだ。
「WIRED」の記事を読んだ人びとから多くの反響が出たのは、日本のランニング熱の高さの表れだろう。ただし「WIRED」が紹介する「WSJ」の記事内容も、べつの学術雑誌の記事を紹介したもの。「ランニングは体に悪い!?」かどうかを知るには、学術雑誌の記述を詳しく見たほうがよりよさそうだ。
●“普通の”ランニングは死亡率を19%低下させる?
その学術雑誌は「ハート」(Heart)という英国の医療雑誌。そして記事は『Run for your life … at a comfortable speed and not too far』(命が惜しければ走れ…快適な速さで適度な距離を)という題の評論で、著者はジェームズ・H・オキーフとカール・J・ラヴィエの2人。オキーフは、米国カンザス市にあるセント・ルークス中央心臓研究所のスポーツ心臓学者で、ラヴィエはニューオリンズ市にあるジョン・オクスナー心臓・血管研究所の心臓学者だ。
「WIRED」が示した研究結果が、「ハート」誌の評論の終わりのほうに出てくる。
「普通のランニングをした人は、しなかった人よりも、19%死亡率が低かったことが確認されたが、ハードなランニングをした人は、この恩恵を受けなかったことも観察された」という「WIRED」の記述は、「ハート」の評論の参考文献をたどると、執筆者の一人のラヴィエが関わった「エアロビクス・センター・ロンギチュナディル・スタディ」という「前向き研究」に行き着く。「前向き研究」とは、ある集団の人びとについて、未来に向かって追跡調査し、それぞれの人がいつどのような病気にかかり、いつ死亡したかなどを見るもの。この研究は、30年間の前向き研究で、対象は5万2600人。うち約1万4000人がランナー、つまり日ごろ走る運動をしている人だという。
さらに、このランナーの1万4000人が、“走りの中身”で分けられている。第一群の「1週間に約32~40km走る人」は、「走らない人」と比べたとき、長生きのための利益を失っているが、第二群の「1週間に約8~32km走る人」は、「走らない人」と比べたとき、死亡率を25%減らしたという。
ほかに、1時間で走る距離については、「約12km以上を走る人」は「走らない人」と死亡率の点で変わらなかったという。死亡率が低いという点でもっとも結果がよかったのは「約9~11kmを走った人」だ。また、1週間で走る回数については、「6~7日の人」は、死亡率に関する利益を失っているが、「2~5日の人」は長生きのための利益をもっとも多く得たという。
まとめると、「週に32~40kmを走る人」「1時間に12km以上を走る人」「週に6~7日を走る人」は、死亡率の点で「走らない人」と変わらない。一方で、「週に8~32km走る人」「1時間に9~11km走る人」「週に2~5日走る人」は、もっとも長生きしやすくなるということになる。
さて、ここで改めて「ランニングは体に悪い!?」のか考えてみよう。