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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

根菜サラダで免疫力&抵抗力がアップする理由…人参はビタミンA、蓮根はビタミンCが豊富

文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部
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「PIXTA」より

 昨今の新型コロナウイルス禍の中、自身の抵抗力や免疫力が気になるビジネスパーソンも多いと思います。そこでみなさんは、免疫力を高める食品と言われれば何を思い出しますか? 納豆? ヨーグルト? チーズ? そういった発酵食品の多くは発酵にかかわる酵母菌がさまざまな代謝産物をつくり出すので、一般的に免疫力を高めたり細胞が損傷することを防いだりする作用があると言われています。しかし、ここで忘れてはならないのが根菜サラダの意外な効能です。

根菜サラダが抵抗力や免疫力を高める理由

 根菜とは、野菜の地下部分、根や根茎を食用とする野菜の総称で、私たちになじみ深い根菜としては、ゴボウ、ダイコン、ニンジン、イモ類、レンコンなどがあります。根菜のうち、イモ類は世界で何十億もの人が主食としている野菜です。イモ類は光合成でデンプンをつくり地下に蓄えるので、栄養のかたまりです。

 人類が植物の地下部分を食べるようになった歴史は古く、200万年前のアフリカにまで遡るという説もあります。当時の人類の栄養源は果実でしたが、気候が寒冷になり、果実が手に入りにくくなった私たちの祖先は、新たな気候環境を生き抜くために根菜を食べることを試みたとされています。

 さて、話は根菜サラダに戻りますが、根菜サラダの魅力は、なんといってもその鮮やかな色彩が食欲をそそる点にあります。緑色野菜のサラダを食べていると「なんだかイモムシになった気分」などのジョークが出てくることもありますが、根菜サラダは非常に彩り豊かです。

 根菜サラダに彩りを添える主役のニンジンは、ビタミンAを豊富に含む食品の代表です。ビタミンAは食品から摂取しなければならない必須栄養素で、血液中の濃度が異常に低下すると、さまざまな欠乏症状が出ます。その代表が夜盲症ですが、これはビタミンAが網膜細胞の保護に必須であるためです。

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ビタミンAの構造式

 在宅ワークの増加や対面業務の減少で、多くのビジネスパーソンは以前よりもパソコンの画面を見ている時間が長くなっていることと思います。これは非常に目に負担をかけることになりますので、ニンジンで積極的にビタミンAを摂取する必要があります。

 また、ビタミンAは細胞分化を促進し、体内の粘膜を正常に働かせる力があります。ウイルスは粘膜に付着することが感染の第一歩ですので、ニンジンを食べることはウイルスに対する抵抗力の向上も期待できます。

 根菜サラダに食感でバリエーションを加えるレンコンにはビタミンCが多く含まれており、細胞に損傷を与える酸化物質に対する抗酸化作用があります。また、白血球の働きを強化する作用も知られています。

 ウイルスは私たちの細胞の表面に結合した後に細胞内にウイルス遺伝子を注入し、細胞を乗っ取って自らを増幅します。白血球は、そのようにダメになった細胞を捕食して全身の恒常性を保つ役目をしますので、白血球を元気にする食品を摂取することは免疫力を高めることにつながります。

気候変動と食糧危機

 さて、冒頭で人類が根菜を食べるようになったのは200万年前の気候変動による寒冷化がきっかけだと紹介しましたが、私たちは再び気候変動が原因となる食糧危機の時代を迎えつつあるのかもしれません。

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、気候変動が原因となって干ばつや洪水が多発するようになり、食糧の供給にすでに影響が出ていることを指摘しており、このままなんの対策も打たなければ、2050年には50億人が食糧危機に陥ると予測しています。

 普段食べている野菜は、おいしく、育てやすく、収量が多くなるように交配によってつくられた、自然界には存在しなかった品種です。その結果、いずれの野菜も遺伝子の多様性はほとんどなく、温暖化が現在のように問題となる前の地球環境に最適化された、いわば人工的な植物であるため、気候が変動すると一気に絶滅してしまう恐れがあります。

 日本においても、ミカンやコメの栽培に適した地域が年々北上していることがわかっており、かつては稲作には向いていなかった北海道でも近年はコメが栽培可能になっています。

 高温乾燥に強い作物の研究も行われていますが、交配による品種改良には数年単位の時間を要し、気候の変動速度に追いついていけません。そこで、国際機関・グローバル作物多様性トラストなどは、現在は食用に供されていないけれども、過酷な環境で生育している作物の近縁野生種を探索するプロジェクトを進めています。やがては、そのような生命力の強い品種が食卓に登場することになるかもしれません。

 私たちは、200万年前、気候変動による食糧危機でやむを得ず植物の地下部分を食べることになった結果、幸運にも豊富なビタミンAを獲得して夜間の行動が可能になり、ビタミンCを獲得して免疫力を高めました。そして今、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)など、次々に新たな感染症が誕生する環境をどのようにして生き抜くのでしょうか。

(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)

食品成分データベース」(文部科学省)

グローバル作物多様性トラスト

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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