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文筆家・森下くるみがテレビを斬る!「エンタメとしての料理番組」第5回

『アイアンマン』を撮ったハリウッド映画人が料理を語る『ザ・シェフ・ショー』がヤバイ

文=森下くるみ
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2019年からNetflixで配信されている、アメリカの料理番組『ザ・シェフ・ショー 〜だから料理は楽しい!〜』紹介ページより

 政府から届いたガーゼマスクを未使用のまま棚にしまい、振り込まれた特別定額給付金にもまだ手を付けず、2020年都知事選立候補者の面々を道端の掲示板で眺め、もうすぐ4歳の息子に「ねー、コロナまだやっちけてないの?」と聞かれ、「まだなんだよねー」とぼんやり答える。

 平坦な日々に、子持ち文筆家・森下くるみが心の栄養とする「エンタメ料理番組」を紹介するこの連載も第5回。

 第1回はイギリス人フードライター兼料理人のレイチェル・クーさん、第2回は大人気料理研究家のコウケンテツさん、第3回は料理家の栗原心平さんが出演する長寿番組『男子ごはん』、第4回はDplayで配信中の『サバイバル・男気クッキング』を取り上げたが、今回はNetflixの大人気番組『ザ・シェフ・ショー 〜だから料理は楽しい!〜』を紹介する。

 番組の出演者は、『アイアンマン』シリーズの監督兼プロデューサーであるジョン・ファヴロー。

 彼が監督を務めたディズニーの長編アニメーション『ライオン・キング』のフルCGリメイク版(2019年)は全世界興行が16億ドルを越え、製作総指揮をした『アベンジャーズ/エンドゲーム』はなんと2020年2月時点で世界歴代興行収入1位となり、俳優としても大作に出演を続け、映画人として無敵に近い形となっている。

 番組では、失敗したレシピをソッコーやり直して完璧なリベンジをやってのけるなど、健康的、紳士的に執念深い。

 もう一人の出演者は、韓国系アメリカ人のシェフ、ロイ・チョイ。

 高級ホテルで腕を振るうシェフだった彼は、2008年に韓国料理×メキシコ料理のフードトラック「Kogi(コギ)」をLAで出店。SNSによる告知&拡散というスタイルも話題となり、フードトラックは全米を巻き込む一大ムーヴメントとなった。

 思慮深い面立ちと、抑えた口調にやたら品性を感じる。両腕にはがっつりタトゥーが入っていて、チベットの高僧がHIPHOP系のキャップとTシャツを身に着けたらこういう感じかもしれない、なんて思ってしまう。

 2人は女優のグウィネス・パルトロウを介して知り合ったのちに、ジョン・ファヴローが監督・脚本・主演を務める2014年の映画『Chef』(邦題:『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』)でロイ・チョイを料理監修として招いた。その縁が、ザ・シェフ・ショーに繋がったということだ。

『死霊のはらわた』『スパイダーマン』で知られる映画監督サム・ライミも登場

『ザ・シェフ・ショー 〜だから料理は楽しい!〜』は、ジョン・ファヴローとロイ・チョイ+さまざまなゲストによる「ガチなおしゃべりクッキング」である。

『死霊のはらわた』や『スパイダーマン』ほかで有名なサム・ライミ監督が、自宅の庭で採取した香草を紙袋に入れてふらりとキッチンにやってきて、ジョン・ファヴロー監督らとオタクレベルの天然酵母の話をしながらパン作りに取りかかったり、人気レストランの厨房に潜入したジョン&ロイが、「選び抜かれた最高級の牛肉を巨大なグリルで焼く場合のベストな火入れと、ソースの相性」などを先輩シェフから手取り足取りレクチャーされたり、人気レストランで次々と運ばれてくる絶品料理に悶絶しながらも、超ヒット作に主演した若手俳優&超ベテラン俳優、大物プロデューサーらと真剣に映画を語ったりと、何から何までプロ仕様、ガチである。

必見のシリーズ1「映画のレシピをもう一度」

 シーズン1は3つのシリーズに分かれていて、「1」はエピソードが8つ、「2」と「3」はそれぞれ6つ、各30分ほど。そのなかでひとつピックアップするなら、シリーズ1のエピソード「映画のレシピをもう一度」がいい。

 これは『Chef』に出てきたパスタやデザートなどのメニューが再現される回で、ニンニク&唐辛子のオイルパスタの工程も素晴らしいが、料理動画で有名なユーチューバー、アンドリュー・リーと作った「チョコレートラバケーキ」の回がめちゃくちゃ楽しい。

 チョコレートラバケーキってなんだろう?と思ったが、「フォンダンショコラ」のことだった。焼き上がったチョコレートケーキを割ると、中から溶岩のようにチョコレートが流れ出す……洋菓子があまり好きではないので食べる機会はないだろうけれど、そういえば、本連載第1回で取り上げたレイチェル・クーさんも『パリの小さなキッチン』で作っていたような。

 正直、チョコレートラバケーキの作り方は難しくない。ボウルのなかで溶かしたチョコにバター、生クリーム、砂糖、溶き卵、中力粉など順番に加えていくだけだし、生地を流し込む前の型の内側にバターを塗っておくなど仕込みにひと手間かかるけれど、慣れたらどうってことない。オーブンの温度に気を遣い、焼き時間さえ間違わなければOK。

料理に対して禅を持ち出し、「美しい」と表現する

 ケーキを作りながら、ジョン・ファヴロー監督たちはえんえんとおしゃべりしている。内容はやはりガチである。

ジョン:「シェフたちに、できることなら二度と作りたくない料理は何かって聞いてみたんだ。人気はあるけどこれはもう限界だろってことで、みんなが答えたのが、チョコレートラバケーキだった。なぜこうも嫌われるんだ?」

ロイ・チョイ:「チョコレートラバケーキは、もともと一流シェフが考案したものなんだ。でも美味しい上に簡単に作れてしまうから、料理に興味のない人もこぞって手を出した。全米のチェーン店で置かれるくらいになり、陳腐になったんだ」

 この会話、日本語字幕だけではほとんど意味がわからないのだけれど、腕利きのシェフにとっては「作り甲斐がなくなった」ってことだろうか。

 ロイ・チョイは独特な人で、調理の途中で「禅」の話題を持ち出したり、チョコレートラバケーキに添えるホイップクリームの色艶、質感を「美しい」と表現する。この時だけでなくロイ・チョイは食材の変化する様によく「beautiful」とコメントするんだけど、わたしはそれを聞き逃さず、いちいち小さな感動をおぼえている。職人気質のなかに情感のたっぷりある人たちが何かを作っているのを見るのが好きなんだよなぁ、と。

 丸い耐熱性容器に生地を流し込んでから、生地の真ん中にガナッシュ(生チョコみたいなもの)を仕込んで、オーブンで9分焼くと出来上がり。

 しかしチョコレートラバケーキが成功かどうかは、焼き上がったケーキのなかを割ってみるまでわからない。失敗すればケーキの真ん中からガナッシュが溶けださない、ということになるが……。

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友人同士であるジョン・ファヴローとロイ・チョイが、毎回豪華なゲストを呼んで料理を楽しむ。(画像は、Netflix内の番組紹介ページより)

料理を囲んでただただ楽しそうな3人を眺める愉悦

 ジョン&ロイは粗熱の取れた耐熱容器をひっくり返し、ケーキを皿に盛りつける。

 ケーキの横にホイップクリームをトッピングしてイチゴとブルーベリーを載せ、最後に粉砂糖とカカオパウダーを散らすと、映画のあるシーンで出てきたチョコレートラバケーキと見た目は一緒だ。

「さあいくぞ。今が運命の時だ」

 と、大きなスプーンを手にしたジョン・ファヴロー監督は待ちきれねー!というニッコニコの顔で、スプーンをケーキに入れ、中を開ける。すると、ちょうどいい具合に溶けたチョコクリームがとろりと流れた。

「うおおおお! 大成功だあああ、とろっとろだぜぇ!」

 監督、引くぐらい大興奮。ロイとゲストのアンドリューも「Amazing!」とキャッキャして喜んでいる。

 そこからはもう、奪い合うように3人のスプーンがチョコレートケーキをすくっていって、光の速さでお皿が空になり、あまりの微笑ましさに笑ってしまうのと同時に、めちゃくちゃ羨ましかった。

 羨ましいといっても、「チョコケーキ美味しそうだなー、食べたいな」というのではない。キッチンでケーキを囲み、仲間と一緒に仕事で遊び切っているジョン&ロイ+ゲストの3人が、映画『Chef』でキューバサンドのフードトラックを走らせていたキャスト3人のテンションにぴったり重なって、「楽しそうでいいなぁ」となったのだ。

 わたしもケーキが上手に焼けたのを祝してみんなでグータッチがしたいよ! と、本気で思わされた。お菓子作りの上手な友達は、いないのだけれど……。
 
(文=森下くるみ)

森下くるみ

森下くるみ

1980年、秋田県生まれ。文筆家。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社、2008年)、『らふ』(青志社、2010年)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ、2016年)など。

Twitter:@morikuru_info

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