今年も厳しい残暑が続いている。気温が上がらなくても湿気が高いジメジメした日も多く、外回りのビジネスパーソンなどはスーツ姿で涼を取るのに苦労しているのではないだろうか。しかも、今年は新型コロナウイルス感染防止のためにマスクの着用が求められている。夏のマスク生活は、思わぬ肌トラブルを招くこともあるという。
知らぬ間に肌のバリア機能が低下している?
「今年の夏は“マスク汗あれ”という症状に悩む人がとても増えています。マスクの中で汗をかいたまま放置してしまい、顔に赤みやかゆみ、チクチク、ピリピリとした痛みが生じる症状です」
そう話すのは、よしき皮膚科クリニック銀座院長の吉木伸子医師。汗あれは「接触性皮膚炎」や「かぶれ」とも呼ばれ、とても身近な皮膚疾患だという。
「汗をかいてムレている肌は、バリア機能が低下している状態になります。バリア機能が低下した肌が汗をかくと、汗に含まれるアンモニアや塩分が刺激になってしまい、皮膚が炎症を起こします。例年は首や腕、ひざの内側、ウエストなど肌がこすれる部位に出やすい症状なのですが、今年はマスクで覆っている顔の部分がかぶれてしまう患者さんが多いですね」(吉木氏)
汗だけでなく、マスクによる摩擦も刺激になることも。汗あれを起こしたところに、さらに摩擦により肌荒れが悪化するという“マスク汗あれスパイラル”に陥ることもあるという。
「当院を受診する患者さんは女性が多いのですが、老若男女問わず注意が必要です。肌のケアが苦手な男性やお子さんも同様に、マスク汗あれのリスクを抱えています」(同)
また、マスクに対する勘違いも汗あれを助長している、と吉木氏は指摘する。
「マスクの中が湿っているので、肌が潤っていると誤解してしまう人が多いようです。しかし、呼気で湿気を帯びた肌は、潤っているのではなく角層がふやけた状態です。その状態でマスクを外すと角質層の水分が蒸発して乾燥し、肌のバリア機能が低下します。肌が傷みやすい状態のまま再びマスクをすると、マスクの繊維や汗が刺激となり、“汗あれ”になってしまうのです」(同)
ハンドケアやあせもケア商品を多く扱うユースキン製薬には、4月以降、マスクによる肌トラブルに関する相談が増加しているという。注目度の高さに伴い、同社では「あせもなくそうプロジェクト」と題して対策法をホームページで紹介するなど、情報発信に努めている。
汗あれを防ぐマスクの選び方
慣れないマスクをしながら残暑を過ごすには、こまめに汗を拭いてほしい、と吉木氏。
「マスクの中に限らず、汗をかいたまま放置すると汗の成分が肌に残ります。肌に残った汗の成分が汗あれの原因になるので、汗をかいた時点でタオルやガーゼで、そっと押さえるように汗を吸い取りましょう。タオルを濡らして汗を拭うのもおすすめです」(同)
濡れたタオルなら、涼感も得られて一石二鳥だ。また、マスクを選ぶ際にサイズ感や素材にこだわると、汗あれ防止につながるという。
「マスクのサイズは顔を覆う部分だけでなく、全長で見るのがコツ。マスクを広げたときにゴム紐まで含めた横の長さが長く、ゆったりめのものが適しています。キツすぎず、縫い目が肌に当たらない適度なフィット感があるものが理想です。サイズが小さすぎると、マスクが肌に強く当たってかぶれやすくなってしまいます」(同)
最近では、不織布だけでなく、布やウレタンなどさまざまな素材のマスクが登場している。自分の肌に合う素材を見つければ、快適に過ごせるという。そして、吉木氏は「汗あれケアは洗顔と保湿が重要」とアドバイスを送る。
「肌が敏感になりやすいこの時期は、余分な添加物がなくて量の調整がしやすい“固形石けん”での洗顔がおすすめです。また『朝は水でもいい』と思うかもしれませんが、眠っている間も皮脂は分泌され、残った皮脂は毛穴を広げる原因になります。朝も泡立てた石けんで洗うのがベスト。朝晩2回、レモン1個分の大きさまで石けんを泡立てて、こすらずにサッと洗いましょう。皮脂や汗が気になるからといって、強い力でゴシゴシ洗うのはNGです」(同)
あくまでサッと洗うのが肌をいたわるコツだ。固形石けんにも敏感肌用や乾燥肌用などさまざまな種類があるので、肌との相性を確認しながら選んでみよう。
「洗顔後やお風呂上がりは、必ず保湿をしてください。男性の中には化粧水が苦手という人も多いですが、ベタつかず、さらっとしたジェルタイプやローションタイプの保湿剤ならストレスも少ないと思います。ただし、ケアを続けても症状が改善しない、かゆみや痛みが長期間続いている、という人は皮膚科医に相談してみてください」(同)
マスクをしているだけでも苦痛なのに、肌まで荒れてしまっては耐えられない。厳しい残暑を乗り越えるためにも、マスクとの付き合い方を見直す必要がありそうだ。
(文=真島加代/清談社)
●吉木伸子(よしき・のぶこ)
よしき皮膚科クリニック銀座・院長。横浜市立大学医学部卒業後、慶應義塾大学皮膚科学教室に入局。1994年に浦和市立病院(現さいたま市立病院)皮膚科勤務などを経て、1998年によしき皮膚科クリニック銀座を開業。
●「ユースキン製薬」