厚生労働省の調査によると、前立腺肥大症患者数は40万人以上と推計されています。特に50代から増加する傾向にありますが、50代といえば男盛り、仕事に遊びにと充実する世代です。
患者のなかには、前立腺肥大の治療に伴い、複雑な悩みを抱えている方もいます。その悩みとは、前立腺肥大治療薬の副作用である性機能障害、特に勃起障害(ED)です。先日も50代男性から、次のような相談がありました。
「トイレが近く、加齢の影響とも思ったが、健康診断時に相談し検査したら、前立腺肥大と診断され薬を飲み始めた。その後、しばらくしてEDになってしまった。性欲もあるし興奮し射精することもあるが、ほとんど勃起しない。男として寂しい。医者に相談したら、『治療効果を優先に考えるように』と言われ、がっかりするばかりだ」
さらにその男性は、「治療のために前立腺肥大治療薬を継続するなら、ED治療薬を服用してよいか」と医師に尋ねたところ、歯切れが悪く、きちんと答えてくれなかったため私に相談したという次第でした。
治療に伴い生活の質(QOL)が低下することは、患者には大きな悩みとなります。医師や薬剤師は、治療効果にばかり注目しがちですが、患者の QOLの維持を考慮した指導が必要であると痛感しました。
前立腺肥大症の症状と原因
前立腺は、男性の膀胱に接して位置するクルミ大の生殖器官です。前立腺が肥大すると、尿道を圧迫してしまい尿が出にくくなります。代表的な症状は、排尿症状、蓄尿症状、排尿後症状の3つです。具体的には、トイレが近い、排尿後の残尿感、尿が漏れる感じがする、少量だが尿が漏れてしまうといった症状が表れます。肥大の程度により自覚症状には差がありますが、多くの患者が初期段階でトイレが近くなる症状を加齢の影響と考え、すぐには受診しない傾向にあるようです。
前立腺肥大症になる原因は十分に解明されていませんが、男性ホルモンの関与が一因ではあります。テストステロンと呼ばれる男性ホルモンは、酵素によって活性化されてジヒドロテストステロンという活性型男性ホルモンになります。テストステロンとジヒドロステロンは、男性の生殖器官の発達を促し、その機能を正しく維持する働きがあります。しかし、ジヒドロステロンは、加齢などの原因により肥大し始めた前立腺には刺激となり、前立腺をより肥大させてしまいます。