NASA(アメリカ航空宇宙局)では、2030年に人間を火星に送り込む構想がある。一方、この地球という星では、その2030年までに「世界の多くの国々で平均寿命が延びる見通し」との大規模な国際調査の結果が先月公表された。
話題の調査は英インペリアル・カレッジ・ロンドンの科学者陣が主導し、WHO(世界保健機構)などが協力して、開発国と途上国を織り交ぜて計35カ国を対象に実施されたものである。
分析の結果、0歳の平均余命を表す「平均寿命」が最も長くなるのは、隣国・韓国であることが判明した。2030年生まれの「女性の平均寿命は90.8歳」と90歳を超し、「男性も84.1歳」となる見通しが読み取れた。
高所得国の中で「最も平均寿命が短い」という不名誉な未来予測が露わになったのは、意外なことにアメリカだ。「女性が83.3歳」「男性が79.5歳」という平均寿命は、メキシコやクロアチアなどの中所得国と同水準。
調査概要では、そんなお国事情の背景として「国民誰もが受けられる医療制度がない点」に加え「母子死亡率」「肥満」「殺人」などの発生率が高い点があげている。
重要なのは「平均寿命」よりも「健康寿命」
では、隣国の韓国に比べ、わが国の「平均寿命」の現況はどうなのか。
前掲の2030年における予測値ではなく2015年時点の数値だが、厚生労働省が発表した「第22回生命表(完全生命表)」によれば、5年前(2010年)に比べて、「男性層が1.20年延びて80.75歳」、「女性層が0.69年延びて86.99歳」となり、男女いずれも過去最長の記録を更新していた。この平均寿命は「保健福祉水準を総合的に示す指標」(厚労省)でもある。
前掲の国際調査の結果を見ると、欧州諸国の最長寿命国は、女性では「フランス人の88.6歳」、男性では「スイス人の約84歳」がトップ。男女ともに、2015年時点の日本人の平均寿命を上回っている。とはいえ、依然として日本の保険福祉水準が世界のトップレベルをキープしていることは事実だろう。
しかし最大の問題は、「平均寿命」よりも「健康寿命」との兼ね合いにある。「健康寿命」とは「介護を要しない自立した生活を送れる期間を示す指標」のこと。日本の場合、健康寿命と亡くなるまでの期間差が長すぎる。つまり、介護や医療を要する高齢者が多過ぎるという点が、最大の問題となっている。