昨年7月に発生した神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で46人が殺傷された事件の植松聖(うえまつ・さとし)容疑者の精神鑑定結果が2月21日、「完全な責任能力を問える」ものであると報道された。
たびたび取り沙汰される殺傷事件での「責任能力」――。たとえ重大な事件を犯しても「責任能力を問えない」と判断された精神障害者は、その後どのような処遇を受けているのだろうか。
他害行為を犯した精神障害者の治療を行うための医療観察法病棟が設けられている、国立精神・神経医療研究センター第2精神診療部長の平林直次医師に、あまり知られてない治療の実情について話を聞いた。
患者の8割は統合失調症
――国立精神・神経医療研究センターの医療観察法病棟では、他害行為を犯した精神障害者の治療を行っています。このような施設は全国にどれくらいあるのでしょうか。
平林直次氏(以下、平林) 現在、「医療観察法」に基づく「医療観察法病棟」は国内に32施設あります。そのなかでもっとも規模が大きいのが、この国立精神・神経医療研究センターにある医療観察法病棟です。66人の入院が可能で、退院した人も通院しています。
重大な他害行為を行った精神障害者が対象で、事件は殺人と殺人未遂が4割程度を占めます。私は、その医療観察法病棟の診察も担当しています。
――「医療観察法」は、どのような経緯で施行されたのでしょうか。
平林 医療観察法は正式名称を「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」といいます。2005年に施行されました。
同法の制定の契機になったのは、2001年に発生した大阪教育大学附属池田小学校の児童殺傷事件です。この事件では8人の児童が殺され、15人が負傷しました。犯人の宅間守は精神科の入院歴がありましたが、その後の公判では責任能力が認められ、死刑が執行されています。
この事件の発生以前から法務省や厚生労働省は、事件を起こした精神障害者、いわゆる「触法精神障害者」の治療施設をつくろうと準備を進めていました。そこに池田小事件が起こり、急速に準備が進んで法律が制定されることになりました。