4月7日、世界保健機構(WHO)のアサモア・バー事務局次長らが塩崎恭久厚労相に面会し、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、公共施設については、国レベルで屋内を完全に禁煙するよう要請した。
ご存じのとおり、政府は受動喫煙を規制する法案の今国会の提出を目指している。そのなか、WHOの幹部が来日して「日本の対策は時代遅れだ」と苦言を呈したのだ。
ところが永田町界隈では、「職場は受動喫煙対策の対象外にせよ」「飲食店の場合は喫煙の可否を表示すればいいのではないかい」などと、現状維持、なかには受動喫煙対策をめぐる厚生労働省の原案を大幅に後退させるような「対案」が、ぶつぶつ呟かれているというからあきれる。
しかも、そういう往生際の悪さを主張している向きは、与党・自民党の「たばこ議連」ばかりか、民進党内でも松原仁・党東京都連会長が「分煙推進議員連盟」を2月に立ちあげて、「原理主義的に建物内禁煙を進めるべきではない」と、いくぶんヤニ臭い独自の立法案を練っている最中だという。
職員を対象に月1回の「無煙デー」を設けた札幌市だが……
ここへ来て、こういった分煙推進派の対案がモクモクと上がり始め、禁煙強化派との意見対立を深めている背景にあるのが、言わずもがな選挙への危機感だ。
タバコ業界や飲食店の関係団体は自民党の有力支援組織であり、「もし法案が通れば、次の選挙でわが身が危ない」などと露骨に口にする議員もいれば、対岸の日本医師会も有力な支援団体であり、利害の錯綜で党内でも対立が避けられない模様だ。
そんな情勢下、受動喫煙防止策を盛り込んだ「健康増進法改正」をいち早く先取りすべく、今年度から職員を対象に月1回の「無煙デー」を設けたのが札幌市だ。
具体的には、職員が利用する市役所本庁舎の喫煙室を月に一度「終日閉鎖」するというもので、すでに道庁本庁舎と振興局の建物内を全面禁煙している道内事情を思えば、「月一」は正直かなり消極的に映る。
しかも、実は札幌市は2026年の冬季五輪・パラリンピック招致を目指しており、市の公共施設を将来的に全面禁煙とする指針を2010年に策定済み。それにもかかわらず、現状では本庁舎内に7カ所と、区役所内(東区役所を除く)9カ所の計16カ所、喫煙室が残存するから、「先取り」の先見評も煙で霞んでしまう。
「望まない受動喫煙」は置き去りか?
さて、飲食店や居酒屋自体が「職場」という方々(とりわけ非喫煙者)は、もっと悲惨だろう。一例が、非喫煙が主流(兼就活受難)の世代として育ったアルバイト従業員で、食べていくためには健康面でも自分の将来が危機にさらされているという次第だ。
件の健康推進法改正案を今国会に提出する方針の塩崎恭久厚労相も3月7日、「望まない受動喫煙」の存在を理由のひとつに挙げてこう述べた。
「飲食店で配膳をしている方、アルバイトの方、大学生、高校生が煙にさらされている」
さらに同氏は、年間1万5000人といわれる受動喫煙死亡者数の概算を挙げつつ、法律の必要性を訴えるべく、このような談話を残した。
「公共の福祉に反しない限り、喫煙の自由はある。(しかしながら)非喫煙者の方、妊婦、子どもさん、がん患者の皆さん、受動喫煙禁止の法律に慣れている外国人の方への配慮が、喫煙の自由よりも後回しにされている」
これに呼応すべく現在、日本肺がん患者連絡会/日本禁煙学会は「受動喫煙対策として厚生労働省の原案に賛成」という要望書の提出を準備中だ。
タバコを吸う場所で食事なんてありえない2>
一方、党内対立を深める自民党の厚労部会では「五輪、五輪というなら、(禁煙は)東京だけでやれ!」といった反対意見も飛び出し、「喫茶店や小売店など、小さな店舗の営業に影響大」とする意見も相変わらず叫ばれている。
後者の見解に対し、厚労省が黄門様の御紋よろしく指し示すのが、WHOの外部組織「国際がん研究機関(IARC)」によるハンドブックで、そこにはこう綴られている。「レストラン、バーを法律で全面禁煙にしても減収なし」と。
反対に、民間調査機関「富士経済」が3日公表した調査結果によれば、法案の罰則が実際に施行された場合、外食市場への売り上げに8401億円の影響が及ぶという。さらに、このうち喫煙者の顧客割合が多い「居酒屋、バー、スナック」への影響は、最多の6554億円と試算されたので事態は混乱の一途だ。
「世界保健デー」の7日に合わせて来日したWHOのダグラス・ベッチャー生活習慣病予防部長は、東京・新橋の飲食店も視察し、「分煙では不十分。タバコを吸う場所で食事をするなんてありえない」とコメント。
火のないところに煙は立たないというが、聖火の灯る日までに求められる対策が講じられることを願う。
(文=ヘルスプレス編集部)