ややプチブームになりつつあるのが電子タバコ。カートリッジにニコチンを含む液体を詰め、これを充電式電池を使って電熱線で蒸気化して吸引するというものだ。電子タバコでは普通の紙巻きたばこと違ってニコチンを含有しないものもある。火を使わず副流煙も発生しないため、基本的に紙巻きタバコと比べて周囲に対する安全性は高まっている。このため市場は徐々に拡大し、現在では全世界で3000億円規模の市場を形成して、日本でも10業者以上が製造・販売をしている。
日本では2010年のタバコの値上げをきっかけに、禁煙グッズとしての効果にも期待が集まっている。ニコチンを含有したシートを体に貼るニコチンパッチと同じか、それ以上に禁煙に有効とする報告も公表されている。
ニュージーランド・オークランド大学のChristopher Bullen氏らは、年齢18歳以上で喫煙本数1日10本以上の成人喫煙者で、禁煙を希望する657人を対象として研究を実施。「ニコチン16mgを含有する電子タバコ群289人」「ニコチン21mgを含有するニコチンパッチ群295人」「ニコチンを含有しない電子タバコ群73人」に分けて、13週間使用後に禁煙に踏み切らせた。
この結果、開始から6カ月目の禁煙持続率は、ニコチン含有電子タバコ群が7.3%、ニコチンパッチ群が5.8%、ニコチン非含有電子タバコ群が4.1%となった。これを統計学的検討で厳密に比較すると、3群間で有効な差は認められなかった。つまり、従来から禁煙治療に用いられているニコチンパッチと電子タバコは同じ効果があると言えるわけだ。しかも、電子タバコにニコチンが含まれているいないにかかわらず、効果は同程度なのである。
一方で、禁煙失敗者も含めた6カ月時点での当初からの1日当たりの喫煙本数の減少率は、ニコチン含有電子タバコ群が57%、ニコチンパッチ群が41%、ニコチン非含有電子タバコ群が45%。また、禁煙失敗者の喫煙再開までの期間は、ニコチン含有電子タバコ群が35日、ニコチンパッチ群が14日、ニコチン非含有電子タバコ群が12日だった。いずれもニコチン含有電子タバコ群は、ニコチンパッチ群に比べて統計学的検討を行っても明らかに有利なことがわかった。
禁煙効果よりも含有している有毒成分が問題
基本的にニコチン成分を含まない電子タバコについては、類似的な香料が含まれる気体を吸うのみでれば、医療的な効果はほとんど期待できないとされるが、プラセボによる一定の効果はありそうだ。しかし、この研究では禁煙持続率の数字がかなり低いのも気になる。さらに注意しなければならないのは、これらは電子タバコにしろニコチンパッチにしろ、医師などの指導に基づいて禁煙指導が行われている点だ。つまりそのような環境が整っている状況下で禁煙に取り組むならば、電子タバコという手段も有効な可能性があるということにすぎない。とりわけ肌が弱くてニコチンパッチを貼るとかぶれてしまう可能性がある人たちには、電子タバコが新たな選択肢にもなり得るかもしれない。
しかし最近では、電子タバコの蒸気にチョコレート味などの多彩な香りがついている弊害として未成年者も手を出しやすくなっていると指摘されている。世界保健機関(WHO)が、若年者をターゲットにした広告規制や公共屋内での使用禁止などを求める報告書を公表するなど、風当たりは強まっている。またアメリカ食品医薬品局(FDA) は、一部の電子たばこに発がん性物質をはじめとする毒性物質が含まれることを報告書内で示している。
電子タバコの普及を受けて厚生労働省は国内の電子タバコの利用状況と健康への影響について調査を始める。調査結果をふまえ、規制することも検討中という。
(文=チーム・ヘルスプレス)