熊本地震から1年余り。震度7をもたらした一連の地震による爪痕は深い。街のシンボルである熊本城の崩れた石垣の復旧は遅々として進まず、20万戸に迫る被災住宅の中には解体すら手つかずのものも少なくない。
病院や診療所なども大きな被害を受けた――。
熊本県内では、約6割の医療機関が被災し、施設の倒壊やライフラインの断絶などで、1600人余りの患者が退院や転院を余儀なくされた。震災関連死の認定では、そのような病院機能の低下が原因とされた被災者もいる。熊本地震によって、医療機関の平時からの災害への備えが、あらためて課題として浮かび上がった。
この問題は熊本県ばかりではない。先月末までに厚生労働省がまとめた調査によると、全国の医療機関の約3割に当たる2400件余りが、耐震性において不十分、または耐震性の診断をしていないことが判明したのだ。
不名誉な全国ワースト3は?
厚生労働省は、昨年9月1日時点の全国8464病院の耐震改修状況を調査。その結果、耐震性があるとされたのは、全体の71.5%に当たる6050施設だった。
それ以外の2414病院では、院内の一部の建物で耐震性が低いとされたのが704施設、すべての建物で耐震性が低いとされたのが141施設あった。
さらに旧耐震基準の1981年以前に新築され、耐震診断の義務づけ対象になっているにもかかわらず、「耐震性が不明(耐震性の診断をしていない)」と答えた病院が1569に上った。
またこの調査では、都道府県別の病院の耐震化率の格差も浮き彫りになった。最も高い滋賀県では89.5%、宮城県は88.6%と、9割近くの病院が耐震化されていた。
それに対して、全国ワーストは京都府の60.0%。福島県61.9%、大阪府62.9%と、全国平均の71.5%を大幅に下回り、上位の自治体よりも30ポイント近く低い結果となった。
約30%に上る耐震化の進んでいない病院は、建て替えに多額の資金がかかることや、工事期間中は診療に影響が出ることなどを理由に、実現可能な耐震改修を先送りしている可能性がある。厚労省は、自治体による補助金制度などを説明するとともに、耐震化を進めるよう呼びかけているという。
災害拠点病院のマニュアルづくりを義務化
一方、災害が発生した時に24時間体制で傷病者を受け入れる「災害拠点病院」や「救命救急センター」の耐震化率は、今回の調査では87.6%。国は2018年度までに、89%まで伸ばす目標を掲げている。
ただし、熊本地震で通常の診療ができなくなった6病院のうち、少なくとも3病院は新耐震基準を満たしていたという。
そうした教訓から厚労省は今年3月、災害拠点病院に対して、被災しても速やかに機能を回復するための「業務継続計画(BCP)」策定を義務化した。BCPは災害時の病院のダメージを最小限に抑え、早期に被災者の診療に当たるための備えや対応を盛り込んだマニュアルだ。医薬品やガス、酸素などの備蓄やライフラインの確保、病棟の安全性評価なども含まれ、内容は多岐にわたる。
3月現在、災害拠点病院は全国に約700あるが、BCP策定済みは45%にとどまる。既存の災害拠点病院は、19年3月までに策定することを前提に指定を継続できることになっている。
病院や診療所は、多くの入院患者を抱えているだけでなく、災害が起きた際には被災者に適切な医療を提供する拠点となる。大地震が起きても病院の機能を失わないために、建物の耐震化と同時に多くの対策が急がれる。
(文=ヘルスプレス編集部)