四季の中でも、秋は最も睡眠に適した季節といわれる。真夏の寝苦しい熱帯夜にたまった“睡眠負債”は、秋のうちに返済するのがベターだ。快眠の秋を過ごすために寝具にこだわりたいという人におすすめなのが“抱き枕”だ。実は、抱き枕には寝付きがよくなったり、いびきを軽減したりするなど、さまざまなメリットがあるという。
“横向き寝”をアシストしてくれる抱き枕
日本睡眠改善協議会上級睡眠改善インストラクターの安達直美さんは、近年の抱き枕市場の広がりについてこう語る。
「抱き枕が市場に出てきたのは25年ほど前です。一時はブームにもなりましたが、あまり枕の種類は豊富ではありませんでした。でも、15年くらい前から、さまざまな素材や個人の“寝姿勢”に合わせた抱き枕が登場するようになりました」(安達さん)
形状や素材、反発力にこだわったものなど、バリエーションが増えたおかげで、より個人に合った抱き枕が選べるようになったという。安達さんは、抱き枕のメリットについて「横向き寝の体圧を分散させて、体の違和感を減らす」と話す。
「朝起きたときに『ぐっすり寝られた』と感じるためには、睡眠の邪魔をする外的刺激を取り除き、深夜の中途覚醒を減らすのがポイントです。抱き枕を使えば、横向き寝でも体が痛くならず、深夜に途中覚醒しにくくなるのです。しっかり眠れると、目覚めたときに“疲労回復”を実感できるようになります」(同)
深夜に目が覚めてしまうような“浅い眠り”は疲労回復につながらないため、朝起きても重い疲労感に苛まれてしまう。途中覚醒の原因はさまざまだが、男性の場合は“いびき”が眠りを妨げているケースがよくみられるという。
「いびきをかくのは睡眠中の呼吸がスムーズに行われていない証拠なので、睡眠の質が下がっているんです。寝ている間に呼吸が止まる無呼吸症候群などの疾患も、睡眠の質を悪化させています。また、冬になると外気が乾燥するため鼻腔が乾いて口呼吸が増え、いびきをかきやすくなるといわれています」(同)
気持ちよさそうにいびきをかいていても、ぐっすり眠れているわけではないのだ。
「いびきは、仰向け寝になると引き起こされる“体位依存性”の人に多いと考えられています。横向きに寝るだけでも、気道が広がって症状が緩和されるという研究結果も出ています。ただ、頭を支える枕だけで横向き寝をすると、敷布団に当たる体の面積が小さく、肩や腰など局所的に体重がかかってしまうので、腕がしびれたり、肩が痛んだりすることもありますよね。そんなときに抱き枕を使えば、横向き寝による体への負担を軽くできるんです」(同)
特に、腰痛に悩んでいる人は、抱き枕を両膝で挟んで眠るだけで腰の位置が安定して負担が軽減されるという。
プロがオススメする抱き枕とは
いびき改善や腰痛ケアなど、人々の悩みにそっと寄り添う抱き枕。今すぐにでも抱いて眠りたい……! ということで、安達さんに“おすすめの抱き枕”を教えてもらった。
●ロフテー「ボディピローセレクション S型寝姿勢」
大手寝具メーカー・エアウィーヴのグループ会社、ロフテーのボディピロー。同社は、日本で初めて抱き枕を商品化した抱き枕界のパイオニアでもある。
「寝姿勢が定まらないと寝付きが悪くなるので、寝ている間も姿勢を安定させるのがコツです。この抱き枕は人の体型や寝姿勢に合わせてつくられていて、中央の穴が開いている部分に太ももを乗せると、横向き寝の姿勢をキープしやすくなりますよ」(同)
サイズ展開はS、M、Lの3種類。自身の体型に合わせた枕選びができるのも特徴だ。同商品のサイトには、身長と肩幅、腰幅から算出したサイズ表が掲載されているので、購入の際は参考にしよう。
●ロフテー「ボディピロー-IBIKI-」
前述のロフテーと、睡眠障害の専門医・千葉伸太郎医師(大田睡眠科学センター)の共同開発で生まれた抱き枕。名前からもわかるように“いびき改善”に特化した設計になっているという。
「普段からいびきが気になっているようなら、IBIKIがおすすめです。足元まで伸びた左右のクッションの端を付属のスナップボタンで留めると、仰向けになるのを防いで横向き寝をキープできますよ」(同)
また、しっかり足元まで支える構造になっているため、横向き寝によって肩にかかる負担も軽減されるという。成人男性が安心して体を委ねられる、全長約165cmの大きさもうれしいポイントだ。
●ディノス「魔法の抱き枕」
「魔法の抱き枕」はディノスと岡山県立大学が共同開発した抱き枕だ。スポーツシステム工学に基づいた立体設計を採用し、頭と膝を所定の位置に乗せると、背骨がまっすぐになって腰への負担が軽減されるという。
「特徴は、頭、首、腰を支える独特な形状のクッション部分です。また、ふかふかの触り心地もリラックス効果が期待できます。しっかりした大きさと重みで寝姿勢を安定させてくれます」(同)
●ハルメク「肩腰にやさしい私の抱き枕」
安達さんも開発に参加した「肩腰にやさしい私の抱き枕」は全長90cmとコンパクトながら、さまざまな機能を備えているという。
「『横寝で、呼吸をラクに。』がコンセプトの抱き枕です。上半身ほどの大きさなので、睡眠中も枕を抱いたままスムーズに寝返りが打てます。頭を支える枕と併用すると、さらに寝姿勢が安定しますよ」(同)
睡眠中のスムーズな寝返りは快眠につながる、と安達さん。横向き寝をキープしつつ寝返りも打てる、一石二鳥の枕だ。
男性こそ抱き枕で眠るべき理由
お気に入りの抱き枕を手に入れたら「まず、使用方法に気をつけてほしい」と安達さんは指摘する。
「抱き枕というと、抱きついたり抱っこしたりする姿を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、本来は枕に覆いかぶさるようにして使うのが基本です。体重を抱き枕に預けるだけで体圧が分散され、体への負担がさらに軽くなりますよ」(同)
ただ抱きしめるのではなく、正しく使うと、より効果が実感できそうだ。そして、安達さんは「男性にこそ、抱き枕を使ってほしい」と話す。
「25年前の抱き枕ブームのときは、購入者の約半数は男性でした。体の大きな男性ほど、抱き枕を使ったときの体への負担が軽くなるので、より恩恵を受けることができるはず。特に、在宅勤務が増えて腰痛に悩んでいる人は、ぜひ抱き枕にトライしてほしいです」(同)
オフィスワークから在宅勤務へと生活スタイルが変化した今こそ、抱き枕デビューしてはいかがだろうか。
(文=真島加代/清談社)
●安達直美(あだち・なおみ)
株式会社エス アンド エー アソシエーツ取締役常務執行役員。一般社団法人日本睡眠改善協議会認定上級睡眠改善インストラクター。国内大手航空会社にて国際線客室乗務員として勤務後、寝装品メーカーの研究所で睡眠にかかわる研究に従事。睡眠文化戦略コーディネーターを経て、現職に至る。著書に『美人をつくる「眠り」のレッスン』(中経出版)
●「ハルメク通販サイト」