各種報道では、さも明日にでも恐竜類の分類に変更が必要な物言いだったが、まずは、今回の論文のタイトルに注目してみてほしい。「A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution」である。
「A new hypothesis 」(ひとつの新仮説)
つまり、いかにインパクトのある論文であったとしても、これは「仮説」であり、教科書の書き換えを迫るような、いわゆる「定説」ではない。筆者に問い合わせてきた業界関係者にも、まずはそのことを説明し、「まぁ、落ち着いてくださいよ」と説明した(ほかにも、内々にいくつかの安心できる要素は伝えている)。もっとも、報道でも「仮説」であることには触れているのだが……。
そもそも論文とは、発表された段階でそれが“決まり”になるというものではなく、その後、長い議論が続いて教科書に載るような“みんなが納得する定説”へと昇華していく。
まさに小林准教授が指摘するように、今回の発表は「議論の呼び水」となることはあったとしても、それ以上のものでは決してなく、一般向けの図鑑などで書き換えが必要になるものではない。「強いて言えば、コラムに載せる」あたりが妥当なところだろう。もっとも、それも「強いて言えば」という段階である(発表される論文のすべてをコラム化していたら、ページ数がいくらあっても足るまい)。
いずれにしろ、こうした論文が出たことは事実だ。遠からず、これを支持する論文や反対する論文が発表され、研究者間での議論が活発化していくことだろう。データとなる化石が少ないという点で、「じゃあ、もっと初期の恐竜の化石を探そうじゃないか」という動きが出てくるかもしれない。その意味で、今後の展開に注目である。
(文=土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター)
●取材協力/北海道大学総合博物館 小林快次 准教授
【参考資料】
Matthew G. Baronほか,2017,A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution,nature,vol.543,p501-506
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