2017年春。あるニュースが“恐竜メディア界”を騒がせた。
「恐竜の分類」にかかわる新仮説を提唱する論文が発表され、それが大きく報じられたのだ。たとえばインターネットメディアでは、AFPBB Newsが3月23日に「恐竜の進化史書き換えか 『革命的』新系統樹、英チームが発表」と報じ、同月27日に財経新聞は「恐竜の誕生と系統に関する、定説を覆す新仮説」と題した記事を発表した。その後も、4月19日には共同通信が「肉食恐竜ティラノの分類に新説 トリケラトプスと近縁か」という記事を配信している。
これに焦ったのは、紙媒体を主戦場とする方々である。筆者の下にも、公式・非公式に問い合わせが相次いだ。特に図鑑制作に携わる人々にとっては、「分類が変わる」は大ごとである。今、販売中・制作中の図鑑が一気に古くなってしまうかもしれない。少なくとも、読者がそう考えてしまう可能性がある。売れ行きを左右しかねない事態だ。いったい、どのように対処すべきなのか。
夏がやってきて、今年も何かと恐竜関連のイベントが多くなるだろう。今回は、恐竜メディア界を騒然とさせた新仮説に関して、現時点での情勢をまとめてみよう。
そもそも、恐竜類には2大グループがある
さて、今回のニュースがどれだけインパクトがあるのか、ということについては、多少の前提知識を必要とする。
恐竜類というグループは、「2つの大きなグループに分けることができる」と考えられてきた。ひとつが「竜盤類」。もうひとつが「鳥盤類」である。
竜盤類とは、トカゲ型の骨盤を持つグループのことだ。この中をもう少し細分化すると、長い首と長い尾を持つ四足歩行の植物食恐竜グループである「竜脚形類」と、ティラノサウルス(Tyrannosaurus)に代表される肉食恐竜を含む「獣脚類」に分けられる。昨今、「鳥類は恐竜類の1グループ」という考えが定着してきている。その鳥類は、獣脚類の中の1グループとして位置付けられている。
一方の鳥盤類は、多種多様な植物食恐竜を含んでいる。有名どころでは、前述の共同通信が言及したトリケラトプス(Triceratops)に代表される「角竜類」。ほかにも、背中に骨の板を並べて尾に太い棘をもつステゴサウルス(Stegosaurus)に代表される「剣竜類」。そのほか、「堅頭竜類」「鎧竜類」「鳥脚類」などが鳥盤類には含まれている。
この2大分類は1887年に提唱されたもので、その後、1世紀以上も現役の分類法として使われている。恐竜に興味を持つ人々は、まず、その大分類に竜盤類と鳥盤類があることを学ぶ。そして、竜盤類の中に竜脚形類と獣脚類があること、鳥盤類の中に多様な植物食恐竜のグループがあることを学んでいくのである。
ティラノとトリケラトプスは本当に“近縁”?
イギリスの学術誌「nature」に、イギリスのケンブリッジ大学に所属するマシュー・G・バロン博士たちが発表した2017年3月の論文は、130年間にわたって連綿と続いてきた、この恐竜類の大分類に異を唱えるものだった。
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