バロン博士たちは、74種類の恐竜と457の特徴をコンピューターに入力して分析した。その結果、竜盤類を構成していた竜脚形類と獣脚類はかなり初期の段階で袂を分かち、獣脚類はむしろ鳥盤類とともに同じ大グループをつくっているということが明らかになったという。
つまり、ざっくりいえば、竜盤類は竜脚形類だけのグループとなり、獣脚類と鳥盤類からなる大きなグループが創設されたことになる。バロン博士たちは、この新たなグループに対して、「Ornithoscelida」という名称を提唱している(和訳語はまだない)。
まさに、恐竜に関する教科書に書き換えを迫るといっても過言ではない結果である。また、共同通信の「ティラノサウルスがトリケラトプスと近縁か」という趣旨のタイトルは、「獣脚類と鳥盤類が、『Ornithoscelida』というひとつのグループにまとめられる」ということに由来するものだろう。
もっとも、新たに示された系統樹でも、鳥盤類と獣脚類はかなり早い段階で別れて進化しているので、恐竜時代の末期に登場した鳥盤類のトリケラトプスと獣脚類のティラノサウルスを「近縁」と表現している点については、個人的には大きな違和感があるところだけれど(1億年以上前に別れた動物を「近縁」とするのは、誤解を招きそうな表現だと思う)。
“恐竜学者”として知られる北海道大学総合博物館の小林快次准教授は、「かなり挑戦的な研究といえます。これまでの固定概念である2大分類にチャレンジしたこの研究は、今後の議論の呼び水になるかもしれません」と話す。そして、「ただし、今すぐに恐竜類の分類が変更されるというわけではありません」と続けた。
図鑑や教科書の書き換えは必要ない?
「恐竜に限ったことではありませんが、特定の生物グループの“祖先形”と呼ばれるものたちについては、まだ化石情報が少ないのです」と小林准教授。
今回の研究では、獣脚類と鳥盤類がひとつのグループとされ、竜盤類は竜脚形類のみとされている(実際の論文は、もうちょっと複雑なものではあるが)。そして、これらのグループの誕生は、初期の恐竜類が登場した三畳紀中期から後期とされているが、この時代の恐竜化石は、まださほど多くは見つかっていないのである。
しかも、研究手法が「特徴を見いだし、コンピューターで分析する」というもので、「特徴を見いだす」という時点で、多少なりとも恣意的な判断が加わる。なんら新発見の化石があったというわけではなく、「手法」による部分が大きいのである。
こうなると「“定説”を覆す」かどうかについては、大々的な議論が必要になるだろう。
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