アメリカでは500もの過剰医療をリスト化
近年、現代医療における過剰医療は日本だけでなく多くの先進国で議論されてきた問題だ。
本来、医療行為にはそれを行うに値する科学的なエビデンスが伴う。しかし現実には「患者が要求する」「お金が儲かる」「患者に訴えられたくない」といった理由で、科学的な根拠に乏しい「無駄な医療」が行われている。たとえば、本来は必要のない検査や手術、抗生物質の使いすぎ、高齢者への多剤処方などだ。
アメリカでは医療費高騰のかなりの部分を「過剰な治療」や「医療連携のミス」などの過剰医療が占めており、その割合は低く見積もっても「医療費全体の20%を超える」との報告もある。
「医療費支出」と「患者の身体」の両方に負担をかける過剰医療は改めるべき--。そうした声が高まったアメリカの医療界では、2012年に「Choosing Wisely(賢明な選択)」というキャンペーンが立ち上げられた。具体的には、臨床系の医学会に呼びかけ、「考え直すべき医療行為」をエビデンスと共に具体的に5つずつ挙げてもらったのだ。
たとえば「ウイルスが原因の風邪やインフルエンザに抗生物質は効かず、逆に耐性菌の増加につながる」「75歳以上がコレステロール値を下げても死亡リスクが下がるという明確な証拠はない」といった内容だ。
最終的に70を超える学会が参加し、500近くにのぼる項目がリストアップされた。これらはすべて、科学的根拠と合わせてインターネットで公開されている。
患者も適切な治療を選ぶ意識を
この活動には各国が注目し、現在では、カナダ、イタリア、英国、オーストラリアなど10カ国以上に広まっている。日本でも昨年10月に「チュージング・ワイズリー・ジャパン(CWJ)」が発足。今年6月1日には日本医学会がシンポジウムで取り上げた。
CWJ代表で佐賀大学名誉教授の小泉俊三医師は、「医療費削減が目的と誤解しないでほしい。大事なのは患者と医師がじっくり考え、望ましい医療を一緒に決めること」と語る。
それでも、医師と患者が協力して適切な治療を選ぶことが、結果として医療費削減に少しでも寄与するならば、運動を進める意義はさらに大きくなるだろう。
国民皆保険制度を維持するためには、自己負担の増加や増税など、なんらかの財源の手当が必要になる時が来る。しかし、負担を増やす前にすべきなのは、まず意識を変えることだ。
私たち患者も過剰な治療のデメリットを知り、「心配だから」というだけの理由で安易に医師に求めないことを意識したい。
(文=ヘルスプレス編集部)