なぜ今昆虫食?
キヌア、タイガーナッツ、ミドリムシなど、近年さまざまな新食材「スーパーフード」が注目されている。これらの多くは、その優れた栄養バランスなどが脚光を浴び、健康志向が高まる国々でブームとなったものだ。
そんなななか、イナゴ、ハチの子、ザザムシなどの昆虫も、食材として改めて注目を集めつつある。2013年には国連食糧農業機関(FAO)が、昆虫を食料や飼料として推奨する報告書を発表した。15年にはイギリスで昆虫食レストランがオープンし、最近アメリカではコオロギのプロテインバーがセレブから一般まで広く人気だという。
では、昆虫食が注目される理由はなんだろうか。そのひとつは低カロリー、低脂肪ながら優れたタンパク源であることがわかってきたことだ(表1)。それだけではない。例えばイナゴは豚肉肩ロースと比較してビタミンB2が6倍含まれており、バッファローワームというイモムシは、鉄分の体内への吸収効率がサーロインステーキをはるかに凌ぐという調査結果もある。
そもそも日本では
FAOの報告書によると、世界では全人口の27%に当たる、少なくとも20億人が昆虫を食べており、1900種以上の虫が食用可能なものとして知られている。
日本にも昆虫を食する文化が古くからあった。平安時代に編纂された薬物辞典『本草和名(ほんぞうわみょう)』には、当時の日本人がすでにイナゴを食べていたことを示す記述がある。イナゴ、ハチの子、カイコのさなぎなど、現在でも長野県などの主に内陸県で名産品として売られているのをご存知の方も多いだろう。
岐阜県南東部(東濃)地域出身の山上奈々子さん(62)にとっては、昆虫食は幼い頃から身近だった。山で薪を採るために木を切る際、木の中にカミキリムシの幼虫「ゴトウムシ」がよく見つかった。それを直火で焼いたものをおやつとして食べていた。白い、トロトロとした食感で美味しかったという。現在でも、機会があればハチの子の缶詰などを食べる。
オススメの食べ方、注意点
ここまで読んで、ほかにも栄養価に優れ美味しいものが溢れているこの時代に、なぜわざわざ昆虫を食べる必要があるのか、納得できない読者もいるかもしれない。食用昆虫科学研究会副理事長の水野壮(みずのひろし)氏は、昆虫食を勧める理由をこのように話す。
「現在の食糧生産は、工場でコストと環境負荷をかけながら行われています。たとえば、豚を一頭育てるのにも穀物を必要とする場合もあります。一方で、地産地消が見直されている流れもある。山がちで昆虫がたくさんいる日本で昆虫を食料とできれば、究極の地産地消を少ない環境負荷で実現できます。
現在の日本では、諸外国のさまざまな料理が食べられ、多様だといえます。全員が昆虫食をすべきとは考えていませんが、一つの食習慣として、楽しみとしてあってもいいと思います。魚釣りやキノコ狩りと同じように、自分で採って食べる楽しみです。桜の葉を食べるモンクロシャチホコと呼ばれる芋虫は、ほのかな桜の香りがしますし、木の根から樹液を吸って成長するセミは樹液の香りがします。その虫の生態と味の関連を知ることも面白みのひとつです」
アメリカなどではコオロギが人気のようだが、日本でおすすめの昆虫はイナゴ、トノサマバッタ、セミだ。日本人好みの味と、身近にいるという理由からだ。最後に、美味しい“昆虫料理”のレシピを紹介するので、興味のある方はぜひトライしてみてはいかがだろうか。
(田端萌子/サイエンスライター)
バッタ、玉葱を1~2cm角に刻み天ぷら粉で揚げる。お好みで青じそを入れても○。さくさくした川エビのような味と食感が楽しめる。さらにイナゴやトノサマバッタは揚げると赤くなるので見た目もよい。
タルタルソースや抹茶塩などで食べるととても美味。昆虫は一般に味は淡白だが、セミはしっかり塩味があり、初心者にも人気の食材。一度食べると病みつきになる人も。毎年夏が待ち遠しくなる。