博物館や企画展のミュージアムショップで販売されているおみやげ用の魚化石の多くは、この類いである。ところが、ブラジルに分布するサンタナ層という化石からは、今まさに「釣ってきたぞー」といわんばかりの「立体感のある魚化石」が発見されるのだ。
大石化石ギャラリーでは、そんな立体感のある魚化石をいくつも見ることができる。たとえば、入り口を入ってすぐのガラスケースに飾られているのは、ラコレピス(Rhacolepis)という条鰭類(マグロやイワシ、サンマなど現在の海で多数を占める魚のグループ)の標本。40cmを超える大きな魚が腹を見せて横たわっている。鱗も確認することができ、“新鮮”感がハンパない。
立体感、そして躍動感もある魚化石も多数(撮影=オフィス ジオパレオント)
ぜひ見てもらいたい展示品は、同じラコレピスの25cmほどの標本だ。立体感はもちろんのこと、ちょうど良い感じに腹部に穴が開いている。その穴から、死後に体内につくられた鉱物の結晶を見ることができる。「釣ってきたぞー」感はあっても、この標本が確かに化石であることがよくわかる。
なぜ、サンタナ層でここまで立体的な魚類化石が残るのだろうか。世界中の良質化石産地を紹介した『世界の化石遺産』(著:P.A.セルデン、J.R.ナッズ、朝倉書店刊行)によると、かつてサンタナ層は、海水と淡水の混ざり合う汽水域であったとされている。しかし、あるとき、なんらかの理由で塩分濃度が急上昇し、魚たちが一気に死滅した。
このときの化石化は、死後1時間以内に始まったという。「1時間以内」という時間は驚くべきスピードだ。なぜなら通常、化石化には長い期間が必要とされるからである。
急速に化石化したことで、地層の重み云々の前に硬くなり、体の形が保持されることになったのだ。この現象は、ギリシア神話に登場する女神にちなんで「メデューサ・エフェクト」と呼ばれている。
魚類化石を研究する学芸員のオススメ化石は?
大石化石ギャラリーには、魚類化石の研究で博士号を取得した専門家である宮田真也学芸員が常在している(フィールド調査などで留守にしている場合を除く)。
今回の記事制作に際して、宮田氏に「オススメの化石はどれですか?」と尋ねてみた。すると、入り口からもっとも遠い壁の近くに掲示されている小さな標本に案内された。「やっぱり、このヘリコプリオンですね。実物です」と言う。
ヘリコプリオン(Helicoprion)は、知る人ぞ知る約2億7000万年前(古生代ペルム紀の半ば)の魚である。主として知られる化石は歯だけで、その歯が螺旋を描きながら並んでいる。渦の中心に近いほど歯は小さく、外側にいくほど大きくなる。