物理現象の謎が解明される可能性も
そんな壮大なスケールの天文学に挑んでいるのが、欧州宇宙機関(ESA)です。ESAは、「LISA(レーザー干渉宇宙アンテナ)」という重力波天体観測衛星を3基、太陽を周回する軌道に打ち上げる計画を検討しています。
衛星は宇宙空間の波に乗っているため、そこに新たな波がやってくると衛星が揺れ動き、衛星同士の距離に変化が生じます。それを観測するために、互いに500万kmも離れた場所に衛星を設置しようとしているのです。
LISAの打ち上げ予定は34年ですが、それに先立ち、LISAに搭載する観測装置を宇宙空間で試験運用するための衛星「LISAパスファインダー」が15年12月に打ち上げられました。
LISAは、宇宙空間で100万分の1mのさらに100万分の1の空間の変化を捉えることを目標にしています。それを可能にするために、LISAパスファインダーは、なんの支えもない宇宙空間で限りなく正確に一定の位置に衛星を保持するための慣性センサーや、日本の小惑星探査機「はやぶさ」にも使用されたイオンエンジンを用いた超精密マイクロ推進システムなどを搭載しています。
それらが宇宙空間で正常に機能するかどうかの実証試験が、1年間かけて行われたわけです。結果的に、観測に必要とされる精度の100倍の精度を実証することができました。期待以上の成果を挙げたLISAパスファインダーは、今年6月30日に運用が終了しています。
このLISAパスファインダーの成功は、将来の重力波天文学の幕開けとなるだけではなく、波動関数などの難しい理論物理学をデータで実証することができる可能性も秘めています。そして、アインシュタインやスティーヴン・ホーキングらが予測しながら、いまだ確認できていない物理現象を次々に解き明かしていく可能性もあるため、注目されています。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)
【参考資料】
「ESA 公式サイト」
『宇宙と地球を視る人工衛星100 スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで』 地球の軌道上には数多くの人工衛星があり、私たちの生活や地球・宇宙の解明に役立てられています。 本書ではこれら人工衛星の基本的な仕組みから歴史、そして100の代表的な人工衛星の概略とその役割を解説していきます。