もしも日焼け止めクリームを買うとしたら、「若々しい肌を保つ」と「皮膚がんの予防」のどちらを頭に浮かべて商品を選ぶでしょうか。この2つの購入目標は、前者は望ましい結果を得ることに、後者は望ましくない結果を避けることに焦点が置かれているという点で異なります。どちらに焦点が当てられているかによって消費者行動が異なることが予想されますが、この現象を説明する理論が、心理学者のヒギンズによって提唱された「制御焦点理論」です【註1、註2】。この理論は、消費者行動が目標によって導かれるという考え方に基づいており、さまざまな消費者行動をとてもよく説明できることで知られています。
制御焦点理論とは
制御焦点理論によると、人が追求する目標には理想と義務があり、どちらが設定されるかによって自分の行動を制御するシステム、すなわち自己制御システムが異なってきます。このシステムには促進焦点と予防焦点の2タイプがあります。理想は希望や願望であり、理想の実現が目標になる場合には促進焦点が働きます。将来のことを考え、達成や成功などのポジティブな結果が得られることを期待するので、それが達成できれば幸福感や満足感が、達成できなければ失望や落胆が生じます。
他方で、義務は為すべきことや責任であり、義務の達成が目標になる場合には予防焦点が働きます。保護や安全を確保し、ネガティブな結果を回避することを期待するので、それが避けられればリラックスした平穏な気持ちになりますが、避けられなければ緊張や不安が生じます。
つまり、促進焦点と予防焦点のどちらのシステムがより強く働くかによって、注意が向けられる情報、対象の評価、および選択が異なってくることになります。誰でも両方のシステムを持っていますが、性格や状況によって強く働くシステムが異なってきます。
行動のフィット感について
通常、自己制御システムに合った行動をとるとしっくりくる気がします。この感覚は「制御フィット感」と呼ばれ、このフィット感があるときの行動は真剣に取り組むことができ、自己制御が強化されます【註3】。したがって、促進焦点システムが働いている場合にはポジティブな結果とつながる行動を、予防焦点システムが働いている場合には損失やミスを避ける行動をとったときに、制御フィット感が得られ、自己満足も上昇することになります。