「ごめん、同窓会には行けません。今、シンガポールにいます……」
以前、こんな大成建設のアニメCMが話題になった。欠席の連絡を当日にするという非常識っぷりや、シンガポールにいると言いたいだけ、などの批判を集めたが、今や同窓会自体が廃れてきており、さまざまな理由で“同窓会に行かない人”が増えているという。
同窓会に行かない人は7割以上?
同窓会幹事代行サービスを手がける笑屋が20~50代の男女1000人に同窓会に関する意識調査を行ったところ、「50人以上が集まった同窓会に参加したことがない」と答えた人は全体の89%を占めた。また、同じく同窓会代行サービスを行う同窓会本舗によると、同窓会の基本的参加率は3割前後だという。
こうした状況について、『同窓会に行けない症候群』(日経BP/鈴木信行)では、同窓会の小規模化が進んでいると指摘している。さらに、同書は同窓会に行かない人たちの事情を「会社で出世しなかった」「起業で失敗」「好きを仕事にできなかった」「仕事以外の何かを見つけられなかった」などと分類。いずれも現状のコンプレックスに起因するケースを紹介している。
同窓会に行かない人が増えている理由について、『上級国民/下級国民』(小学館)の著者である作家の橘玲氏は「承認されていないことへの不安が大きくなっているのでは」と分析する。
「これまでは“人並み”の基準が、働いている、結婚している、子どもがいるなどシンプルなものでしたが、SNSの普及によって、オリジナリティのある生き方をしているか、好きなことを仕事にできているか、輝いているかなど、どんどん複雑になってきています。それによって、久しぶりの同窓会で『今どうしてるの?』と聞かれたときに、どう答えればいいかわからなくなった人が増えている、というのはあるかもしれません」(橘氏)
誰かの人生を常に観察できるSNSの発達によって、自分の人生に自信が持てない人が増えているのではないかというわけだ。前述の『同窓会に行けない症候群』では、ある調査で、同窓会に行かない理由として「時間がない」「会いたくない人がいる」より「自分に自信がないから」という回答が最多だった点に注目している。多様な生き方が許容されている社会だからこそ、今の現役世代は「自信を失いやすい経済環境に生きている」のかもしれない。
「社会学では、ポジティブ感情≒幸福度を4つの指標で評価しています。『自分が上層階層に属しているか』という階層帰属意識、生活全般への満足度、現在の幸福感、『生き方を自分の自由で決められるか』という主観的自由です。
これらの感情を得点化して合計すると、もっともポジティブ感情が低かったのは『壮年(昭和生まれ)男性/非大卒』グループでした。世間では『どの大学を出ているか』が話題になりますが、現代日本の断層線は大卒と非大卒(高卒・高校中退)の間に引かれています。データからはっきりしているのは、低学歴で年収が低い男性は未婚率が高く、幸せを感じにくいということです」(同)
同じ地元で育ったからといって、似たような人生を歩むとは限らない。大学受験や就職活動などの人生の岐路によって、強い挫折感を抱いたまま中年に突入してしまう人も少なくない。とはいえ、「若年(平成生まれ)男性/大卒」グループの幸福度も全体で4位。若く学歴があるからといって、決して幸福度が高いわけではないのだ。さらに、全体的に女性より男性のほうが幸福度が低いという結果になっている。
経済格差とモテ格差が直結する男性の悲哀
なぜ、男性は総じて女性より幸福度が高くないのだろうか。橘氏は、自由恋愛によって「恋愛」や「結婚」の格差が広がっていることが、男が自信を失うひとつの要因ではないかと言う。
「男女で大きく異なるのは『モテ』と『非モテ』の構造で、男の場合、『持てること(社会的・経済的成功)』が『モテること』と一致します。逆にいえば、経済的に成功していない『持たざる男』は、恋愛市場から排除される『モテない男』になってしまうのです。男女が自由に交際相手を選ぶようになるとこうした傾向が増幅され、現代社会は事実上の一夫多妻制になりつつあります。男性の生涯未婚率は女性の約2倍ですが、これは一部の『持てる男』が複数の女性と恋愛や結婚を繰り返しているからです」(同)
女性は経済的に成功していてもいなくても性愛の対象となり得る(ニートでも若ければモテる)が、男性は経済状況がモテに直結し、その傾向は年齢を重ねれば重ねるほど強くなっていく。学生時代にモテモテだった男性も、10年後には「持たざる者」になっていることもあり得るわけだ。同窓会で「持てる=モテる者」と出会うことでその劣等感が加速するとしたら、参加しない人が増えるのも当然なのかもしれない。
(文=藤野ゆり/清談社)