ベビーフードの老舗ブランド、和光堂を展開するアサヒグループ食品は3月6日、乳児用ミルク「レーベンスミルク はいはい スティックパック」「フォローアップミルク ぐんぐん スティックパック」の一部商品を自主回収すると告示しました。
自主回収の原因は、酸化防止で行うスティック内への窒素ガス封入が不十分だったため、スティック内に酸素が残り、酸化により品質が劣化し、賞味期限の確保が難しくなったためとしています。アサヒグループ食品は、「今後、このような事態が発生することのないよう、より一層、品質管理体制の強化に努めてまいります」とコメントしていますが、和光堂に対する消費者の信頼が大きく損なわれたことは間違いありません。
ところで、「窒素ガス封入が不十分」というのは、どういうことなのでしょうか。
食品の製造・保存には、窒素、酸素、二酸化炭素、水素、ヘリウム、オゾン、亜酸化窒素のガスが使われています。いずれも食品添加物に指定されています。食品製造用ガスの代表的なものには、冷凍食品製造に使う液化窒素・液化炭酸ガスがあり、フグやカニといった高級魚介類から、うどんなどの麺類、ピラフやアイスクリームなど広範囲に利用されています。また、水素ガスは油脂の硬化油化、品質向上、ソルビトール(甘味料)の製造に使われています。
食品保存では包装パック向けの利用が非常に増えています。ポテトチップスのパックはパンパンに膨れていますが、あれはパック内の空気を窒素ガスや炭酸ガスに置き換えているのです。「ガス置換包装」という保存方法です。たとえば、かつおぶしのミニパックには「不活性ガス混入」と表示してありますが、窒素を使っています。また、煮豆やカステラ、半生ケーキなどの半生食品には、菌の繁殖を抑えるのに炭酸ガスが用いられます。
これらのガスは、もともと空気中に含まれているものですから、安全性は高いと評価されています。しかし、食品添加物ですから、使用法を誤れば食品の品質を劣化させ、消費者の健康に悪影響を与える恐れがあります。
アサヒグループ食品が自主回収している「はいはい」などの育児用ミルクも、この「ガス置換包装」されたものです。自主回収告知では窒素ガスの封入が不十分だったということですが、単に窒素ガスの量が不足していたのか、あるいは窒素ガスの純度が低かったのか定かではありませんが、製造過程の徹底的なチェックが求められるところです。
窒素、二酸化炭素などのガスは既存添加物(旧天然添加物)ですが、亜酸化窒素は同じガスでも指定添加物(旧化学合成添加物)に分類されています。亜酸化窒素は無色無臭のガスで、医療分野では吸入麻酔薬として利用されています。食品にはホイップクリーム類のみに使用許可されている噴射剤ですから、粉ミルクには使えません。ホイップクリーム1缶(約198グラム)に8.5グラム程度の亜酸化窒素が充填されています。
気になるのは亜酸化窒素の毒性です。食品安全委員会の報告書には、実際に人が摂取する亜酸化窒素を含有したホイップクリームを、ラットに与えて調べた結果が記載されています。それによると、ラットの口腔内へのクリーム逆流、腹部の膨張、胃・小腸内部に白色内容物が認められています。
また、亜酸化窒素ガス曝露による毒性試験では、雄ラットで精子形成細胞の障害、精子数の減少が見られ、妊娠したラットでは胎児脂肪、胎児の内蔵・骨格異常が観察されています。窒素と亜酸化窒素では毒性が大きく異なるのです。間違って亜酸化窒素を粉ミルクに使っていることはないのか、赤ちゃんを持つ親ならとても心配になるはずです。
この夏には、育児用液体ミルクの販売が日本でも解禁されます。育児用ミルク販売会社は、この亜酸化窒素が液体ミルクも含めて、すべての育児用ミルクに使われていないか、徹底的な検査をする必要があるでしょう。
低カロリーで種類も多いベビーフード
また、育児用ミルクだけではなくベビーフードにも添加物の不安があります。
日本のベビーフードの大半は、1961年に設立された日本ベビーフード協議会に加盟している企業が製造・販売しています。同協議会にはアサヒグループ食品、江崎グリコ、キューピー、ピジョン、森永乳業、雪印ビーンスタークの6社が加盟しており、遺伝子組み換え食品、残留農薬、食品添加物などの自主規約を定め、乳児の健康と健全な発育に寄与することを目的としています。
日本ベビーフード協議会では、ベビーフードとは「乳児および幼児の発育に伴い、栄養補給を行うとともに、順次一般食品に適応させることを目的として製造された食品」と定義しており、現在300種類以上の商品が販売されているといいます。
ベビーフードといえば昨年、思わぬところで大フィーバーが起こりました。
昨年1月15日に放送されたバラエティー番組『ピラミッド・ダービー』(TBS系)で「ベビーフードダイエット」が取り上げられたのをきっかけに、ベビーフードが品切れになるスーパーマーケットやコンビニエンスストアが続出したのです。
番組では、タレントの春香クリスティーンが、1日の3回の食事のうち2食をベビーフードに替えて1週間続けた結果、もともと58.3キロあった体重が3.1キロ減って55.2キロになりました。スタジオ出演者からも「すごーい」「見た目も全然違うよ」などと大騒ぎでした。このベビーフードダイエットを考案した医者は、「ベビーフードは種類が多く、飽きずに続けられる。味付けもしっかりしていて、1箱食べても120キロカロリー程度」と説明していました。
「赤ちゃん本舗」などの量販店でもベビーフードが品薄状態になるほどの過熱ぶりでしたが、「赤ちゃんの食べ物を奪うな」と非難の声も噴出しました。今ではベビーフードダイエットはすっかり下火になり、ベビーフードはどこの店舗でも買い求められます。
ベビーフードにも食品添加物が使用されている
赤ちゃんに食べさせるものだからといって「安全・安心」と思い込まず、商品の原材料名表示をよく見て、どんな添加物が使われているのか確認し、慎重に商品を選ぶことが赤ちゃんの健康のためには大切です。
日本ベビーフード協議会では、「食品添加物の使用は、必要不可欠な場合に限り、最小限の使用にとどめています。また、使用できる添加物も限定しています」として、保存料、着色料、化学調味料などの使用を禁止しています。その点は、非常に評価できます。
しかし、どうしても納得できないのは、「加工デンプン」の使用を認めていることです。同協議会の「ベビーフード添加物リスト」(2017年1月)では増粘剤として、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酸化デンプン、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプンの「加工デンプン」の使用をみとめているのです。
しかし、加工デンプンは、安全性に関する情報が不足していることが大きな問題になっている添加物です。デンプンに化学薬品を加えて、その特性を失わせたり、増強させたりしている合成添加物です。EU(欧州連合)は乳幼児向け食品に、加工デンプンのひとつヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプンの使用を禁止しています。「製造工程で用いられる化学物質のプロピレンオキシドは、発がん性、遺伝毒性のある物質であることは否定できない」(SCF:欧州食品科学委員会)というのが、その理由です。
このような安全性が不確かなものを、体の発育が未熟な子どもに摂取させるのは避けるべきです。「加工デンプン」と表示してよい添加物は11品目あります。仮にヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプンが使用されていても、原材料名表示には記載されません。したがって、原材料名表示に「加工デンプン」の記載があったら、子どもに摂らせるのは控えるようにしたほうが無難です。
特に、子どもの好きなカレーは食べる頻度も量も多くなりがちなので要注意です。たとえば、日本ベビーフード協議会加盟のある食品メーカーのカレーにも加工デンプンが使われています。その商品の原材料名表示は、次の通りです。
「野菜(じゃがいも、にんじん、たまねぎ、赤ピーマン)、砂糖、牛肉、バター、かぼちゃペースト、たまねぎエキス、りんごペースト、トマトペースト、カレー粉、食塩、かつおエキス、チキンブイヨンパウダー、ウスターソース、ほうれん草ペースト、ブロッコリーペースト、しょうがペースト、にんにくペースト/増粘剤(加工デンプン)、グルコン酸Ca、ピロリン酸鉄、(一部に乳成分・小麦・牛肉・鶏肉・りんごを含む)」
日本ベビーフード協議会加盟メーカーには、ベビーフードに加工デンプンを使わないでほしいと切に願います。
また、液体ミルクが日本でも解禁されることになりましたが、どんな添加物が使われているのか、メーカー並びに販売者は表示されない添加物も含めすべて情報公開すべきです。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)