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堀田秀吾「ストレス社会を科学的に元気に生き抜く方法」

部下や子どもの「結果」を褒めてはいけない? 正しい褒め方、間違った褒め方

文=堀田秀吾/明治大学法学部教授
部下や子どもの「結果」を褒めてはいけない? 正しい褒め方、間違った褒め方の画像1「Gettyimages」より

 人間社会は、他人との関わりと協働によって成り立っています。自分自身が元気にバリバリやることももちろん大切ですが、周りの人たちを元気にしたり、やる気を出させることも時に必要になります。

 しかし、人は元来、他人に影響されずに自由でいたい生き物。他人を動かすのは容易ではありません。周りの人が思うように動いてくれない、と悩んだり、ストレスを感じたことが誰しもあるはずです。

 ということで、今回は、他人にやる気を出させる方法についてご紹介していきたいと思います。

褒めることによる効果

 まず、てっとり早く相手をその気にさせるのは、「相手を褒める」ことです。当たり前のことに思われますが、実は科学的根拠のある法則だったのです。

 ベルリン自由大学のコーンらは、fMRI(機能的磁気共鳴画像)という、脳の働きを視覚化する機器を用いた実験によって、人間が、自分にとって望ましい評価を受けたときに、自己肯定感が高くなり、精神的健康や幸福感を手に入れるということを脳科学的に証明しました。相手を褒めると、相手の脳の報酬を司る部位が活性化し、喜びとやる気のホルモンのドーパミンが放出されるので、自分への自己肯定感が高まりますし、やる気も出るのです。

 また尚絅学院大学の池田らの研究では、大学生たちに共同作業と単独作業を褒めながらやった場合と褒めずにやった場合で実験したところ、褒めながら作業をした学生たちのほうが、再度の実験への参加意欲が高まりました。つまり、やる気が出たわけです。

 つまり、叱咤激励も時には大事かもしれませんが、基本的には褒めてやる気にさせるほうが良いということです。

 一方で、褒め方にもコツがあり、そのコツをおさえると、相手のやる気を上手に出させることができます。これは、スタンフォード大学のドゥエックらの研究なのですが、人間は自分の人格を褒められると、やる気をなくす一方、自分の努力の過程や成果を褒められるとやる気が出るというものです。

 この実験では、数百人の子どもたちを対象に知能検査のかなり難しい問題を解かせ、一方のグループには「よくできたね。頭がいいのね」というようにその子の「能力」を褒め、もう一方のグループには、「よくできたね。がんばったのね」というように、その子の「努力」を褒めました。

 そしてその後、成績の等しい2つのグループの子どもたちに、新しい問題を見せて、新しい問題に挑戦するのか、同じ問題をもう一度解くのか、そのどちらかを選ばせるという実験をしました。すると、能力を褒めたグループは、新しい問題に挑戦することを避け、同じ問題を解こうとする傾向が強く、自分の能力を疑われてしまう可能性のある行動を取りたがらなくなりました。一方で努力を褒められたグループは、そのうち9割もの子どもたちが、新しい問題に挑戦するほうを選び、学ぶチャンスを逃さないようになりました。

 さらに能力を褒めたグループは難問を解くことにフラストレーションを感じ、自分は頭が悪いのだ、と考えるようになりました。一方努力を褒められたグループは、難問のほうが面白いと考え、難問にぶつかったときにイライラすることなく、もっとがんばらなくてはと感じ、積極的に難問に挑戦する傾向が見られました。

 このように、その子どもの人格ではなく、努力した過程を褒めると、子どもは努力することに喜びを感じ、挑戦し続けるようになるのです。これは、大人であっても同じことがいえます。

 ですから、相手にポジティブな評価をする際には、仕事の結果ではなく、その人の仕事に対する姿勢や努力の過程に着目して褒めてあげましょう。

相手によって褒め方を変える

 また、褒め言葉の文言については、オランダのユトレヒト大学のブルンメルマンらの研究が参考になります。

 この実験では、240人の子供たちを対象に、ゴッホの絵を真似して描かせ、プロの画家役の人物に評価してもらいました。そして、評価の後、子供たちは、4枚の難しい絵画と4枚の簡単な絵画を見せられ、それらのいくつかを模写するように言われました。

 大げさに褒めるパターン(「信じられないくらい美しい絵だ!」)、普通に褒めるパターン(「美しい絵だ!」)、まったく褒めないパターンのうち、自己評価の低い子供たちは大げさに褒められると、無難に簡単な絵を選ぶようになり、自己評価の高い子どもたちは、難しい絵を選ぶようになったそうです。

 ちなみに、同じ研究チームの調査で、褒める側は、自己肯定感の低い子供のほうを大げさに褒める傾向があったそうです。効果としては、自己肯定感の低い子供のほうを大げさに褒めても、自己肯定感が高い子供ほどには効果がないことを考えると、好ましい傾向とはいえないかもしれません。

 つまり、大げさに褒めるにしても、相手がどういうタイプの人間かを見定めながら褒め方を変えていくことが大事ということです。

情けは人の為ならず

 では、このように周りを元気にしても、自分が損するだけじゃないかと思うかもしれませんが、当然、自分自身にも良い効果があります。
 
 カリフォルニア大学リバーサイド校のルボミルスキーらの研究によると、学生たちに週に5回、他者が喜んでくれそうなこと(例えば、献血、論文を手伝う、感謝の手紙を書く等)を1週間に5回、6週間にわたってさせたところ、(しないグループよりも)自分の幸福度が高まったそうです。情けは人の為ならずということですね。ただ、1日に数回まとめてするほうが、1日1回行うよりも効果的だったそうです。

 また、「好意の返報性」という原理もあります。相手の態度が好意的だと、自分の態度も相手に対して好意的に返したくなるという人間の心理です。ですから、相手に対してポジティブな評価をすると、好意の返報性が働き、相手も自分に対してポジティブな評価をしやすくなるのです。

 このように、相手のいいところを見つけて褒めてあげると、相手もハッピーでやる気が出るだけでなく、自分もハッピーになれて、好意的に接してもらえるなんて、良いことずくめなわけですから、やらない手はありません。

 とはいえ、やっぱり人間関係はなんといっても「真心」が大事。うわべだけの、「下心」のことばではなく、相手のことを想った、「真心」のこもったことばや態度で相手に接していかないとうまくいきません。これらの実験をきっかけにして、相手に真心で接して、良好な人間関係を築いていってくださいね。
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)

堀田秀吾/明治大学法学部教授

堀田秀吾/明治大学法学部教授

 専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。

Twitter:@syugo_h

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