祝祭日ともなれば、日本のどこかで必ずグルメフェスティバルが開催されています。その中心となっているのが、ラーメンです。日本人のラーメン好きは本当にあきれるほどです。
ゴールデンウィーク中には、東京・中野の中野四季の森公園で「ラーメン女子博2018」が開催されました。昨年度は横浜赤レンガ倉庫など各地で開催、延べ約32万人の入場者があったという人気イベントです。「女子博」との名前ではありますが、男性も入場できるというので5月5日、筆者も会場に行ってみました。女子博と銘打っているだけに若い女子グループで大賑わいでしたが、目立ったのが小さな子どもを連れた親子の姿でした。
漢方やスパイスを使用したラーメンや、会場でしか食べられない香草たっぷりのラーメンなど、全国の有名ラーメン店・18店舗がつくった会場限定ラーメンが、1食900円で食べられます。
豚骨、煮干し、かつお節、サバ節等を豊富に使ったスープなど、どれもこれも素材を強調していますが、「無化調」を謳っていなければ、化学調味料を例外なく使っているのがラーメンスープ。その使用量は1杯10~15グラムに上ります。小学生にもなっていない子どもたちに、平気でそんな濃厚味のラーメンを食べさせている親たちを見て、思わず声を上げてしまいました。
「そのラーメンはやめて、向こうの無化調ラーメンにしたほうがいいですよ」
無化調ラーメンの店を覗くと、そちらにも家族連れがラーメンを食べていたので、「わかっている人はわかっているんだな」と、納得した次第です。こうしたラーメンイベントに、もっと多くの「無化調ラーメン店」を参加させてほしいものです。
化学調味料を入れないと給食の食べ残しが増える?
10年ほど前、うどん、そば、中華麺、そのスープ類などの卸業者を取材したときのことです。一斗缶に入ったラーメンスープが倉庫内に山積みされていて、一斗缶に貼られていた原材料名表示を見ると、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、リボヌクレオタイドナトリウムの化学調味料名が記載されていました。そして、倉庫内にあるボードには、スープの納品先として、テレビのグルメ番組で「スープは秘伝」などと、もったいぶっていたラーメンチェーン店名が書かれていました。
ラーメン店の元経営者に、「グルソー(グルタミン酸ナトリウム)などの化学調味料を加えないと客離れするんですよ」と聞かされたことがありますが、そのとき私はある小学校の給食を例に出してこう言いました。
「確かに、日本人の味覚は化学調味料基準になってしまいました。化学調味料が多ければおいしいと感じる味覚音痴ばかりです。小学校の給食も、化学調味料を使わないと生徒たちの食べ残しが増えるんですよ。ただ、学校給食の栄養士や調理師さんたちには『一振りに負けるな』という言葉も先輩からずっと引き継がれています。
化学調味料の悪影響は、栄養士や調理師は皆、知っています。それで化学調味料を使わないメニューを出すと、給食の残量が増えてしまう。食べ残しの量が増えると教育委員会から栄養士や調理師は怒られます。それで、つい『一振り』となってしまうのです。ただ、このとき一振りの誘惑に負けないで、3日間化学調味料を使わないメニューを出し続ければ、4日目以降は化学調味料を使うよりも、子どもたちの食べ残しは減少してくるというのです。ラーメン店でも同じだと思いますが」
化学調味料が多い食品の代表例的なラーメンから、無化調の“ホンモノ”のラーメンがどんどん出現してほしいものです。化学調味料が出現する前から、人々はラーメンを食していたのですから。
化学調味料の健康への悪影響に関連する研究は、これまでに数多く行われてきました。
たとえば、2002年に弘前大学医学部研究グループは、半年にわたって行ったラット実験で、グルタミン酸ナトリウムをたくさん食べるラットほど、緑内障にかかるという結果を公表しました。
弘前大学医学部は緑内障の研究や治療では内外に知られていますが、そもそもラットに化学調味料を与える実験を試みたのは、緑内障の患者に硝子体(水晶体の後ろにある眼球を満たしているゼリー状の物質)中のグルタミン酸レベルが増加しているのを発見したのがきっかけです。
研究グループは、普通の食事A(100グラム)、食事B(A+市販の卓上「うまみ調味料」でグルタミン酸ナトリウム10グラム)、食事C(A+同グルタミン酸ナトリウム20グラム)の3種類の食事を与えるラット(21匹)に分けて、1カ月、3カ月、6カ月後に、これらのラットを物理化学的に分析しました。その結果は、次のようなものでした。
(1)食事Aのラットと比較して、硝子体中のグルタミン酸の増加した蓄積が食事Bと食事Cのラットで発見された。
(2)食事Bと食事Cを食べたラットの網膜神経層の厚さは、食事Aを食べたラットのそれよりもかなり薄かった。
(3)DNAの損傷が食事Bと食事Cのラットの網膜の神経節細胞に発見された。
(4)食事Bと食事Cのラットは、食事Aと比較して網膜の内部層にグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現が多く観察された。このGFAPレベルの増加は、緑内障患者の網膜で発見されている。
これらの実験結果から研究グループは、「多量にグルタミン酸ナトリウムを含んでいる食事を食べると、硝子体中のグルタミン酸濃度が高まり、網膜細胞が破壊されるかもしれない」と推測しています。また、「グルタミン酸ナトリウムの過剰摂取が、西洋の国々より日本で多くみられる正常眼圧緑内障に関連しているかもしれない」と指摘しています。
緑内障は「眼の成人病」といわれ、日本での最大の失明原因になっています。40歳以上の約5%に発症し、潜在患者数は400万人と推定されています。
認知症の増加あるいは若年化が深刻な社会問題になっていますが、平成の初め、広島大学医学部で遺族の了解を取り、認知症で亡くなった患者の脳を解剖したところ、脳細胞から異様にグルタミン酸が多く発見されています。
ラーメンをはじめとして、当たり前のように化学調味料入りの食品を子どもたちに食べさせているお母さん、お父さん。化学調味料の本当の姿を知ったら、通常のラーメンなどとても可愛い子どもたちに食べさせられなくなるでしょう。ラーメンを食べさせるのなら「無化調」にすべきです。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)