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桶谷 功「インサイト思考 ~人の気持ちをひもとくマーケティング」   

なぜ単身シニア男性ほどスーパーで揚げ物を買うのか?誤解だらけのシニアの消費動向

文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

 その一方で、定番の王道でありながら、セブンイレブンの「金の食パン」がシニア世代のニーズをとらえて新たに高級パン市場を開拓しました。これと同じように、シニア世代を突破口にして、パン業界の念願である「夕食市場」を切り拓いていくことができるかもしれません。シニア世代、特に単身シニア男性は、夕食にパンを食べることに抵抗がない人も多いからです。

単身シニア男性に商機あり!

 男性の生涯未婚率が上昇する傾向は、今後も続くと予想されており、単身のシニア男性はますます増えていきます。すでに「おひとりさま」市場が注目されていますが、それは、単身女性をイメージしたものが大半です。今後は、単身シニア男性に向けても大きな商機があるのではないでしょうか。

 日清食品のカップヌードルはシニア男性が実はこってり好きである点に着目し、高価格帯の「贅沢とろみフカヒレスープ味」ではこってりした美味しさを最優先して開発。ローカロリーの「ナイス」シリーズでも、各商品は「濃厚!ポークしょうゆ」「濃厚!クリーミーシーフード」「濃厚!キムチ豚骨」とこってり味を極めています。

 また、シニア男性は昔の若い頃のイケていた自分で時間が止まっているといいますか、今でも自分のイメージが、当時のイメージのままの人が多いので、それがビジネスチャンスになりそうです。例えば、当時憧れていたクルマに今も乗りたいと思っていたり、洋酒でも昔飲んでいたバーボンが一番かっこいいと思っていたり。スキーやテニスなども、新しく若者を取り込むより、かつて仲間たちと一緒にプレーしていたシニアを呼び戻すほうが簡単かもしれません。

 仲間と連れ立って出かけるといえば、最近はポケモンGO。女子と違って、何か目的がないと一緒に出かけにくいシニア男性にとって、ゲームは格好の材料かもしれません。提供側から見ても、シニア男性は離脱率が低く長く続けてくれる大事なユーザーになり得ます。

 シニア男性が若かった頃好きだったモノやコトをうまく想起させることができれば、さまざまな商品やサービスが受け入れられそうです。

 ターゲットというと、少しでも若いうちから取り込みたいと、ついつい思ってしまいがちではないでしょうか。平均寿命がどんどん延びるなか、シニアといっても、その後のライフタイムバリュー(1人の顧客が生涯トータルで企業にもたらしてくれる価値・利益)は十分な大きさになってきています。

 単身世帯は、すでに世帯全体の35%と最も多く、今後も増加していきます。今までの当たり前にとらわれない目で世の中を見ていくと、新たなチャンスが広がってくるのではないでしょうか。
(文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役)

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

大日本印刷(株)を経て、世界最大級の広告代理店 J.ウォルター・トンプソン・ジャパン(株)戦略プランニング局 執行役員。ハーゲンダッツのブランド育成などに貢献。2005年、著書「インサイト」(ダイヤモンド社)で日本に初めてインサイトの考え方を体系的に紹介。2010年に独立し、(株)インサイト設立。マーケティング全般のコンサルティングを行う。コンサルティング実績は、食品・飲料・日用品・クルマ・医薬品・百貨店・ファッションEC・C2C・テック系サービスと多岐にわたる。インド・中国などでのインサイト探索・戦略開発や、イノベーション開発、独自メソッドの導入・教育も行う。他の著作に「インサイト実践トレーニング」「戦略インサイト」(ともにダイヤモンド社)など。企業・協会等での講演やセミナー多数。日本広告学会会員。グロービス経営大学院MBA講師。

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