「海藻」は海で生息する植物の総称です。海藻とその祖先は地球の歴史において10億年近くも水中生物の王者の地位を続け、広範囲に繁殖しています。また、陸上植物の祖先は、大昔、海藻の祖先が地上に進出したものです。海藻は2万種類以上に分類することができますが、そのうち数百種類が世界各国で食用とされています。日本で食用とされる主な海藻には、アオサ、ノリ、コンブ、ワカメ、ヒジキなどがあります。
海藻は栄養豊富でサステイナブルな食品
東アジアの国々では、有史以前から海藻を食べていたことがわかっています。和食には海藻がそのままで、あるいは練り物のように加工されてしばしば用いられますが、アイルランド、スコットランド、ウェールズの海岸地帯や、中国、韓国、ベトナム、マレーシアでも海藻を食べる習慣があります。
海藻は思いのほか栄養価が高く、人間の体が必要とするミネラルやアミノ酸を、陸の野菜に比べ、はるかに多く含んでいます。食物繊維が豊富で満腹感をもたらすので、食欲と血糖を抑える効果もあります。海藻特有のネバネバ物質のフコイダンには、抗炎症、抗ウイルス性があり、悪玉コレステロールを減らし、血栓のリスクを抑える作用があるといわれています。
また、甲状腺が正常に働くために必要なヨウ素も多く含んでいます。多くの場合、海藻は天然物を採取することができ、採取後は自然に再生しますので、究極のサステイナブル(持続可能な)食品だと言えます。
たとえば、ヒジキは北海道南部以南の潮間帯の岩石上に群生する海藻で、茎は円柱状で岩上をはって生息しています。生のときは褐色ですが、採取して乾燥させると黒褐色となります。若い藻体を食用としますが、葉緑素のほかにカロテノイド色素、特に褐色のフコキサンチンを含みます。粘着性成分としてアルギン酸を含むことも特徴です。
海藻がメタボリックシンドロームを抑制する
慶應義塾大学などの研究チームは、海藻に含まれる食物繊維のアルギン酸ナトリウムが腸内細菌を介してメタボリックシンドロームを抑制することを明らかにしました。
食物繊維のアルギン酸ナトリウムは、コンブやワカメ、ヒジキ、モズクなどの褐藻類に含まれている多糖類です。「増粘剤」「ゲル化剤」など食品の品質改良材として広く用いられていることに加えて、水溶性食物繊維としても用いられています。また、肥満モデル動物を用いた試験において、体重増加を抑える、コレステロールを減少させるなど、メタボリックシンドロームに対する効果も報告されています。
さらに、一部の腸内細菌が食物繊維のアルギン酸ナトリウムを栄養源として利用できることも明らかとなっています。今回の研究で、メタボリックシンドロームを誘発するために脂肪の多いエサを与えたマウスに食物繊維のアルギン酸ナトリウムを摂取させると、特定の腸内細菌が著しく増加することがわかりました。
抗菌剤で腸内細菌叢を破壊すると、メタボリックシンドロームが進行することが以前からわかっています。そこで、腸内細菌叢を破壊したマウスに食物繊維のアルギン酸ナトリウムを与えたところ、腸内細菌叢が整えられ、メタボリックシンドロームが改善したことから、食物繊維のアルギン酸ナトリウムは腸内細菌叢を整え、その結果としてメタボリックシンドローム抑制に必須の成分であることが明らかになりました。
さらなる解析によって、食物繊維のアルギン酸ナトリウムは腸管内で炎症を起こす細胞の割合を低下させることがわかり、この作用は腸内細菌を除去すると消失することから、食物繊維のアルギン酸ナトリウムは腸内細菌を介して腸管の炎症性細胞を減少させることによっても、メタボリックシンドロームを抑制することが明らかになりました。
今後、「腸内環境を健全に保つことでメタボリックシンドロームを予防し得る」という概念が広く浸透していくとともに、メタボリックシンドロームの予防・改善を目的として腸内環境を変化させる食品・医薬品の開発が期待されます。
外飲みの機会が少しずつ増えているビジネスパーソンのみなさんも、サラダを注文するときには海藻サラダ、つまみを注文するときにはヒジキの煮物を一品加えるなどして、メタボリックシンドロームの予防を心がけてみてはいかがでしょうか。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部)
【参考資料】
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
『今だから知りたいワクチンの科学』 ワクチンの情報は玉石混交。もう何でもアリの状態。ここはひとつ落ち着いて、ワクチンを超わかりやすく見つめ直してみた。多くの人に理解してもらえるよう、イラストを駆使してわかりやすく解説。ワクチンを正しく知って、効果とリスクを見極めよう。