甘いものやジャンクフードが、なぜか「欲しくならなくなる」簡単な方法
甘いものを代表とするジャンクフード。ストレスが溜まっているときや疲れているときは特に食べたくなるもの。「甘いものが食べたいってことは、脳が糖分を必要としているってことだから、食べていいんだよ!」などと、ちょっと科学的に聞こえる、まことしやかな大義名分を用意して、多少の罪悪感にかられながらも食べてしまう方も多いのではないでしょうか。
でも本当に脳が欲しているから食べたくなるのでしょうか? 実は、そうでもなさそうだということを示す研究があります。
カナダのウォータールー大学のロウらの研究チームは、ジャンクフードを食べたいという気持ちになってしまう原因は、脳の機能低下にあるということを明らかにしました。被験者らの左の背外側前頭前皮質の機能を一時的に低下させると、カロリーが高い食べ物を欲するようになるだけでなく、実食においてもジャンクフードを食べる傾向がありました。
背外側前頭前皮質という脳の部位は、いわゆる前頭葉の前側にあり、ワーキングメモリ、注意・集中力、判断力などと関係があります。脳は中心に行くほど原始的な動物に近い働きになり、外側に行くほど人間らしい脳になっていきます。前頭葉はまさに人間らしい脳で、脳の中心のほうで沸き起こってきた感情を抑制する働きがあります。したがって、その機能が低下すると、普段は「悪いからやめよう」「我慢しよう」と思っていることについて判断が鈍り、我慢ができなくなってしまうのです。
そして、この背外側前頭前皮質の機能低下は、ストレスが原因でも起こります。つまり、ストレスがたまり、脳の背外側前頭前皮質の機能低下が生じると、普段身体に悪いからやめておこう、我慢しようと思っているジャンクフードについつい手が伸びてしまうわけです。ストレスがたまりがちな忙しいときには、時間もかからないファストフードなどのジャンクフードが手軽でいい、というのも拍車をかけているのかもしれませんね。
また、この研究のなかで気になるのは、特に女性にこの傾向が強いとの結果が出ている点です。ジャンクフードのなかでも、女性はミルクチョコレートやポテトチップスを欲しがるようになったとの結果が出ています。これは、普段は美容や健康のため、抑制しているものを欲しがる、という点からも納得がいきますね。
ジャンクフードを求めてしまうのは、結局、脳が必要としているのではなくて、欲望を制御する脳の機能が低下しているからということですが、どちらの場合にせよ、「自分が悪いんじゃなくて、脳が悪いんだ」ということには違いないようです。
「馴化(じゅんか)」
では、ジャンクフードを欲しくならないようにするには、どうしたらいいんでしょうか?
カーネギーメロン大学のモアウェッジらのチームによる研究で、「想像するだけである程度食欲を抑えることができる」ということが明らかになりました。研究チームは、51人の被験者を3つのグループに分けました。第1グループには、「チョコレート(M&M)を3つ食べる」&「コインランドリーの洗濯機にコインを30枚挿入する」という場面を想像するように、第2グループには、「コインランドリーの洗濯機にコイン3枚を挿入する」「チョコレートを30個食べる」という場面を、第3グループには、(食べる想像はなしで)「コインランドリーの洗濯機にコインを33枚挿入する」という想像をしてもらいました。そしてその後、被験者全員にチョコが入ったお皿を配り、好きなだけ食べていい、と指示をしました。
すると、チョコを30個食べるシーンを想像した第2グループの被験者は、3つしか想像しなかった第1グループや、まったく想像しなかった第3グループの被験者に比べ、実際にチョコを食べる量が少なかったのです。
これは、心理学で「馴化(じゅんか)」と呼ばれる現象に基づくものと考えられています。簡単にいうと、脳は新しいものが好きなので、慣れてきてしまうと欲しなくなるということです。特定の食品を食べる場面を想像すると、脳がその食品の欲求に慣れてしまい、食べたいという気持ちが減少するわけです。それによって、実際に食べる量が減るわけです。
わかりやすい例としては、「食べたい!」と思って食べ始めた大好きなお菓子でも、1口目と10口目だと、そのお菓子に対するモチベーションに違いが出ますよね。想像して、頭の中で実際に1口食べるだけで十分なくらいまでたくさん想像しておけば良いということです。
しかし、ここで気をつけてほしいのは、この効果は、自分が想像した食品だけに効果が限定されるのです。同じ研究チームの実験で、チーズを食べることを想像してもらった被験者たちは、チョコレートを食べる量に変化はありませんでした。
ダイエットをしていると、食べ物のことを考えないように、食べ物の話を避けたり、高カロリーな食事が出そうな食事会を断ったりなど、どうしても行動が制限され、ストレスが溜まってしまうこともあるでしょう。欲求に負けてしまうこともしばしば。でも、飽きるほどそのことを考えてしまうことで、そういった問題が解決されるかもしれません。
(文=堀田秀吾/明治大学法学部教授)