死に至るノロウイルスの恐怖 ふん便や空気、あらゆる食品から感染 毎年370万人感染
●日本の全人口が感染するほどの強さ
ノロウイルスは人の小腸粘膜で増殖し、人に感染性胃腸炎を引き起こす。その主な症状は嘔吐と水のような下痢、腹痛、発熱(38℃くらい)の4点セットで、特に突然、激しく強く起こる嘔吐が特徴的だ【編注3】。
他の症状として頭痛、咽頭痛、筋肉痛、食欲不振などがあり、まれに発疹やケイレン、脳症などが見られる。ノロウイルスに感染してから症状が出るまでの潜伏期間は24~48時間で、症状が1~2日程度続き、大半は自然に治る。
ただ乳幼児や高齢者、免疫不全など抵抗力が弱い人は重症化して長引くこともある。また吐いた物で呼吸のための気道が詰まって窒息したり、誤嚥性肺炎で死に至ることもあるため、“腹の風邪”などと甘く見ないほうが賢明である。
何しろノロウイルスは感染力が極めて強く、環境の変化にも耐える。人の小腸で増えたノロウイルスはふん便と共に排出されるが、患者のふん便1グラム中になんと10億個ものノロウイルスがいるという。これに対し、人はわずか10~100個のノロウイルスで感染・発症してしまう【編注4】。つまり、10個だとすれば、ふん便1グラムで1億人、日本のほぼ全人口が感染する計算だ。
●ノロウイルスの悪循環システム
ノロウイルスの人への感染経路は食品からの感染と、人からの感染の2通りある。食品感染ルートの代表はカキやシジミ、アサリなどの二枚貝で、特にカキは生ガキや酢ガキのほか、加熱不十分な蒸しガキ、カキフライなどが原因になった。
なぜ、カキなのか。ノロウイルスを含む患者などのふん便の行き先が問題だ。ノロウイルスが完全に下水処理されない場合、それが河川から海に流れ込み、河口に近い海で養殖されるカキなどを汚染する。カキはエサのプランクトンを食べるために、1日に240リットル以上の海水を吸い込む。
その際、カキの消化器官の中腸腺に海水中のノロウイルスが蓄積・濃縮される。カキ自体はノロウイルスから悪影響を受けず、人だけがカキを食べて食中毒を起こす。まさに悪循環システムだ。ただ2000年代初めにはカキ関連料理が原因のノロウイルス食中毒が、原因がわかったうちの4分の1を占めていた。
それが近年、巻き寿司やコロッケパン、カツ弁当、おはぎ、マグロ刺身、野菜サラダ、ホウレンソーのシラス和え、アスパラベーコン、ケーキ、和菓子、クレープ、杏仁豆腐など、さまざまな食品が原因になっている。また、飲食店や旅館・ホテルなどの料理や仕出し弁当などが少しずつ増えてきた。