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三上洋「IT漂流時代」

1台のiPhoneを“ネットは無料の楽天モバイル+通話はドコモ”利用の利点と問題点

文=三上洋/ITジャーナリスト
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 4月8日からスタートした第4の携帯電話キャリア・楽天モバイル。筆者は今のところ満足して使えています。もしiPhoneを公式サポートできれば大化けして大手3社を脅かす存在になるかもしれません。

非公式だがiPhoneで「楽天モバイル」+「他社」の2契約利用

 下の画像を見てください。筆者のiPhone(11 Pro Max、SIMフリー)で「Rakuten(副回線=楽天モバイル)」と「docomo(主回線=NTTドコモ)」の2つが表示されています。

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iPhone 11 Pro maxで楽天モバイル(eSIM)とNTTドコモを利用した状態

 1台のiPhoneで、楽天とドコモの契約を2つ使っています。ネット利用はいまのところ無料の楽天モバイル、電話利用は安定しているNTTドコモという使い分けです。

 楽天サービスエリアでスピードはそこそこ出ていますし、地下・屋内や楽天サービスエリア外では提携パートナーのau回線を使えます。au回線は5GBまで(4月22日以降)ですが、オーバーしても1Mbpsで使えますし、困ったら主回線のドコモに切り替えて使えばOK。今のところ大きな不満はありません(利用者が増えれば変わる可能性はある)。

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東京・乃木坂での楽天モバイル回線スピードテスト。現時点では十分なスピードが出ている

 楽天モバイルは1年間無料という大盤振る舞いですから、1年間はこれで運用すればデータ通信料金を大幅に削減できそうです。願ったり叶ったりです。

 いいことづくめに見えますが大きな問題があります。この利用方法は非公式で、あくまで自己責任になってしまうこと。楽天モバイルはiPhoneについて「動作保証外であり、ご利用はお客様自身のご判断でお願いします」(公式サイト)とハッキリ言っています。楽天モバイルの公式サイトにもiPhoneの利用方法はありませんし、何かトラブルがあっても利用者の責任です。

 今のところトラブルはありませんが、iOSのバージョンアップで影響が出る可能性もあります。またiPhoneには通話アプリ「Rakuten LINK」がないため、音声通話が無料にならず30秒20円かかってしまいます。加えて現時点ではキャンペーンのポイントバックの恩恵を受ける手段がないようです。そのため筆者としても「楽天モバイルでiPhoneを使おう」とはお勧めできない状態です。

 しかし、もしiPhoneが公式サポートされれば、楽天モバイルはとても魅力的です。メイン回線としては過去にもトラブルがあったことから不安ですが、サブ回線としてデータ利用だけで使うなら問題ないでしょう。

 利用者が多いiPhoneを楽天モバイルが公式サポートすれば、楽天モバイルが大化けする可能性が出てきました。「eSIM」が可能な楽天モバイルのメリットが生きてくるのです。

「デュアルSIM」「eSIM」でサブ回線としての楽天モバイルが生きる

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楽天モバイルから届くSIMカード。eSIMとして使うには手数料3000円を払って変更手続きをする

 実際に使ってみてわかったのは、楽天モバイルのサービスというより、「デュアルSIM」と「eSIM」の便利さでした。1台のスマホに2つの携帯電話会社の契約ができるデュアルSIMは、Andoroidの一部機種が対応しているほか、iPhoneでは XR/XS/XS Max以降の機種が対応しています。

 iPhoneの場合は1つは通常のSIM、もう1つは本体内蔵型(物理的なSIMカードを使わずにデータ登録で使うもの)のeSIMとなります。eSIMについてはケータイジャーナリストの石野純也さんが以下の記事で詳しく解説されています。

『IIJと楽天が「eSIM」オンライン契約は広まるか』(石野純也氏)

 楽天モバイルでは、変更手数料3000円がかかりますがeSIMに変更することが可能です。楽天モバイルでeSIMに対応している機種は現在のところ「Rakuten Mini」のみ。しかしWebサイトには以下のような表記もあります、

その他のeSIM対応製品(2020年4月時点)

iPhone 11 ※1、iPhone 11 Pro ※1、iPhone 11 Pro MAX ※1

iPhone XS ※2、iPhone XS Max ※2、iPhone XR ※2

Google Pixel 4、Google Pixel 4 XL

※上記機種は動作保証外となりますので、ご利用はお客様自身のご判断でお願いいたします。

※1iOS13.0以降

※2iOS12.1以降

 iPhoneやPixelの一部機種がeSIMに対応しているわけですが、楽天モバイルとしてはあくまでも「動作保証外であり、お客様自身の判断で」としています。これらの機種が楽天モバイルとして公式サポートできれば、デュアルSIM・eSIMによって「月額2980円で楽天サービスエリアならほぼ無制限(※1)利用可能」が大きな武器になります。

※注釈

※1 1日あたりのデータ量制限はある。現時点では1日あたり10GB程度使うとスピード制限がかかる模様

サービス開始日に「2GB→5GB増量」のサプライズ

 楽天モバイルがスタートしたのは2020年4月8日。三木谷浩史社長は開始日にサプライズを仕込んできました。

【4月8日スタート時の楽天モバイル大幅変更】

・「容量アップ」:提携するau回線のデータ量を1カ月2GBから5GBに増量(4月22日~)

・「超過後もそこそこのスピードに」:超過後は128Kbpsと遅いスピードになるはずが1Mbpsとそこそこ使えるスピードに(4月8日~順次)

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楽天モバイルのWebサイト。開始日にサプライズを仕込んできた

 これには驚きました。au回線でも十分使えるデータ容量ですし、オーバーしても1MbpsならばLINEやWeb利用には十分に使えます。楽天モバイルサービスエリア外で使う人にも魅力的なプランに進化しています。

 筆者は謝罪しなければなりません。自分の記事で当初の楽天モバイルのプランを「期待ハズレ」と書いてからです。

『【楽天料金・速報分析】使い放題は楽天エリアのみ。au接続だとたったの2GBまで』(Yahoo!個人)

 申し訳ありませんでした。提携のauエリアで2GBしか使えないことなどを「期待ハズレ」としたのですが、それを大きく超えるサプライズ変更でした。

 提携パートナーのau回線が5GBまでとなったことで、料金では逆転現象が起きています。auのデータ量少なめの人向けのプラン「ピタットプラン 4G LTE(新auピタットプランN)」は2,980円(2GB)~5980円(7GB)までの段階制ですが、楽天モバイルはこれと同じか安くなっています。電話料金も含めれば楽天モバイルのほうが確実に安くなります。大盤振る舞いといえるでしょう。

大盤振る舞いで楽天の体力がどこまでもつか

 楽天モバイルは、大盤振る舞いともいえる思い切った施策を投入しました。しかし、これにより楽天は大きな出費を抱えることになります。

 まず、当初発表した1年間無料というキャンペーンにより、1年間は事務手数料以外の収入が見込めません。1年間は赤字でサービスを続けながら、さらに基地局を増やす投資が必要です。

 そしてau回線の負担です。楽天モバイルがauに払うデータ通信料金は1GBあたり500円といわれています。利用者が5GB使えば、これだけで2500円。さらに1Mbpsのスピードでの通信料が加わるわけです。月額2980円の料金収入があったとしても、各種コストを入れたら赤字でしょう。そして1年は無収入なわけですから、赤字というより「高額な家賃を払いながら全メニュー無料の食堂を続ける」ような状態です。

 思い切ったというより「無謀」とも言える取り組みです。第4の携帯電話会社として新規参入するゆえの本気のチャレンジなのかもしれません。

 これができるのは、楽天には楽天市場を中心にしたメインビジネスがあるからです。楽天市場・楽天カードなどのお金になるビジネスの儲けを、携帯電話ビジネスに注ぎ込んでいるわけです。

 問題はこの負担をどこまで続けられるかでしょう。1年間は無料ですが、さらにその後もauへ払うお金とサービスエリアを広げていくための設備投資が必要です。数年間は赤字覚悟でしょう。

 つまり楽天モバイルが勝つためには、既存の大手携帯電話会社と戦うのと同時に「本業での儲けを出し続ける」ことが重要なのです。楽天市場は送料問題などで揺れているほか、Amazonとの戦いも続いています。Amazonとの戦いを互角に続けて儲けを出し続けること、それが楽天モバイルの生命線となります。

 ドコモ・au・ソフトバンクとの「対携帯キャリア戦線」と、Amazonなどとの「ECサイト戦線」の二正面作戦を数年間は続けていかなければなりません。三木谷社長は大きなギャンブルに出ました。長期間の二正面作戦をどこまで続けられるか注目です。

(文=三上洋/ITジャーナリスト)

三上洋/ITジャーナリスト

三上洋/ITジャーナリスト

1965年、東京都生まれ。東洋大学社会学部を卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、1995年から、IT全般を専門とするITジャーナリストとして活躍。文教大学情報学部でSNSやネットビジネスの講義を行う他、テレビ・ラジオでのセキュリティ解説多数。
ITジャーナリスト・三上洋のWebサイト

Twitter:@mikamiyoh

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