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村澤典知「時事奔流 経営とマーケティングのこれから」

AIに企業が抱く大きな誤解

文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員

AI化しやすいもの、しにくいもの

 このようなAIとの関わり方は、各企業にとってムダな投資になるだけでなく、AIというシーズを社会全体で育てていく上でも悪影響をもたらしかねない。AIは1956年のダートマス会議で誕生して以来、これまで第一次ブーム(1956年~1974年)、第二次ブーム(1980年~1987年)を経て、数年前からディープラーニング(深層学習)の進展による未曽有の第三次ブームを迎えている。今度こそ三度目の正直となってほしいが、今回も囲碁AI「AlphaGo」が世界最強とされる囲碁棋士の柯潔(カ・ケツ)から勝利を奪ったことなどから、AIやその立役者であるディープラーニングに対して期待過剰の状態となりつつあり、一過性のブームとなるリスクもある。

 とはいえ、われわれはAIを短期的なブームではなく、長期的なメガトレンドの1つとして向き合うことが求められている。それには、AI化しやすいもの、しにくいものを理解することが必要だ。例えば、現段階で今後AI化しやすいものの特徴としては以下のようなものが想定される。

・客観的な論理(方程式など)で解が導出できる
・反復性が高い、パターン化しやすい
・AI学習のためのデータを大量に入手できる

 一方、どんなに進化の早いAIでも構造的に対応しにくい領域がある。マーケティングに関して言えば、「文脈理解」と「需要創造」だ。イノベーションの大家であるクリステンセン教授が著書『ジョブ理論』でも言っているとおり、データで把握できることには限界がある。

 イノベーションにつながる顧客インサイトを特定するには、顧客行動データの背後にある理由(Why)や、データには現れてこない周辺環境や感情などの文脈を読み取った上でより深く多面的に顧客を理解することが欠かせない。AIは、「単語」や「短文」レベルでの理解に関してはチャットbotのように実用可能なレベルにまで成長しているが、「長文」や「文脈」、言葉化されていない「行間」を理解することは非常に難しい。

 また、AIは一定のゲーム・ルールに従って正解を導く「最適化」については得意だが、そもそもの需要を最大化させるために、ゲーム・ルールをチェンジするようなことはできない。例えば、世の中に「ゆるキャラ」が多数登場した後に、どういった特徴を持つキャラだったら人気が出そうかといったことは推計できても、ゆるキャラがほとんど存在しない(=データが少ない)時に、「くまモン」のようなキャラクターを論理的に創造することはできない。限られたデータから非連続な新しいアイデアを生成し、需要創造することは人間だからこそできる強みなのだ。

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