AIとのつき合い方、向き合い方
今後AIのブームが今の勢いを保ち続けるかはわからないが、深刻な人材不足に直面する日本にとっては、AI活用による人材の生産性向上は喫緊の課題だろう。そうなると企業による導入や活用については、一時的な減速はあっても逆走することはない。
ただし、AIを導入していく上で留意すべき点はある。得意な仕事でもそのままパーツとして導入してうまくいくわけではない。自社のビジネスモデルや業務プロセスの特性に応じて、どこまでをAIの業務範囲とし、どこまでを人間がやるかといった業務範囲を明確にすることや、AIと人間の協業業務のすり合わせがポイントになる。自社のビジネスモデルの特徴を顧みずにに他社と同様の分業をしたままでは、十分な成果は期待できない。このあたりの自社ならではのAI活用の勝ちパターンを見つけた企業が、今後大きな競争優位性を得ることになるだろう。
AIへの過剰な期待論とともに、AIに人間の仕事が奪われるといった「脅威論」がある。だがそれは人間が「走って移動する」行為に対して、馬や電車と競って脅威を感じるようなものだ。足の速さでは馬に勝てないかもしれないが、電車などの移動手段の発達によって人間にもたらされたメリットは存分にある。大切なことは、AIの力をあくまでも手段として最大限活用し、任せられる業務は代替させつつ、新たに生まれた余剰の時間を使って人間にしかできない創造的な業務にシフトすることだ。
つまり、これからのマーケターには、データに表出していない文脈を察知し、誰も気づいていない顧客インサイトを理解することや、そのインサイトをベースに非連続なアイデアを創出し、関係者を巻き込みながら実行する、といったことが求められていくのである。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員)